コミュニケーションと言葉

みなさん、こんにちは。キャリアコンサルタントの奥 富美子です。

文化庁は毎年、全国の16歳以上の人を対象に「国語に関する世論調査」を行い、その結果を発表しています。https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/h28_chosa_kekka.pdf
平成28年度調査の問1は、「コミュニケーション能力は重要だと思うか」です。「そう思う:81.4%」と、「どちらかと言えば、そう思う:14.9%」を合わせた「そう思う(計)」は、96.4%です。ほとんどの人が「コミュニケーション能力は重要だ」と思っています。

では、その「コミュニケーション能力」とは何なのでしょうか。問2は、「コミュニケーション能力とは、どのようなものであると考えるか」です。「いろいろな力が組み合わさったもので、言葉に関する能力が含まれる:33.1%」と、「『話す』『聞く』『書く』『読む』など言葉に関する能力:30.3%」を足すと、6割以上の人が「言葉に関するもの」と考えているようです。

私たちは、頭のなかで物事を考えているときも「言葉」をつかっています。考えたことを誰かに伝えたり、説明したりするときも「言葉」にして表現します。「書いて」伝えるにしても、「話して」伝えるにしても、「言葉」を用います。人と対話するときも、「言葉」を使います。「言葉の習得」は、生きていくのにたいへん重要なものです。

「ストレスに強い大人が子ども時代に育まれていたもの」に「認知能力を超える『非認知能力』がある」と、日本ストレスチェック協会の「キッズ・ストレスマネジメント講座」ではご紹介しています。テストの点数や偏差値などの数字で測ることができる「認知能力」とは異なり、「非認知能力」は数値で測定しがたいものです。教科の勉強やテキスト学習では教えることが難しいのです。

この「非認知能力」には、「コミュニケーション能力」も含まれます。他にも、開放性、好奇心、共感力、利他性、やりぬく力、自己肯定感等々、様々な能力が示されています。これらが複雑に絡み合って身につき、その人の「総合人間力」のようなものになっていくのでしょう。

コミュニケーション能力を高めるには、「言葉をつかう」練習が必要です。「言葉をつかう」なんて、「日常生活において、意識しなくてもやっている」と思いがちですが、「あえて行う」ことを意識しないと、練習機会を逸している子どもや若者が増えているように思います。

大学生と接していて、「コミュニケーション能力」の習得度合いに大きな開きがあることを実感しています。キャンパス内で挨拶をしてくれる学生は、笑顔が伴っていて明るいです。こうした学生は、時間が許せば、立ち話につき合ってくれます。学生生活のこと、アルバイトのこと、就職活動のことなど、たずねれば話してくれます。話してくれると応援もしやすくなります。

一方、まったく言葉を発しない学生もいます。学生証を忘れたとき、教務課に発行してもらう「仮学生証」のシートを、私の目の前に黙って差し出した学生がいました。電子出席システムなので、学生証を忘れてタッチできなければ欠席となるため、修正が必要です。そのための「仮学生証」ですが、「忘れてしまったので、修正お願いします」と、言葉で言うことができません。「できない」というよりは、「しない」ようです。「何ですか」と聴いても、無言のままです。ブスッとした表情で、「見れば、分かるでしょ!」と、態度で示しています。

ボードに「学籍番号:●●の方、声をかけてください」と書いておきました。一人の学生がやってきて、私を見つめます。「何ですか」と聴いても無言です。顎をしゃくって、ボードを見ろと、態度で示します。「ボードに書かれた学籍番号は私。来いというから来たんでしょ!」です。

「言葉」はどこに消えてしまったのでしょうか。しばらく待っていても、一向に言葉は出てきません。待ちくたびれて、こちらが話しかけてしまいます。限られた授業時間のなかで、彼らの「言葉をつかう練習」対応はできません。こうした状況は、稀ではないのです。

「言葉を発しない」背景に、「相手が分かって当然」が潜んでいるところが気になります。このような表現方法を、生育課程において、家庭で教わってきたのかもしれません。これでは、人間関係構築には支障をきたします。

「非認知能力」を身につけるのは就学前が効果的といわれています。「子ども時代」を大切にしたいものです。かかわる大人が重要です。大人が、「言葉をつかって、話しかける」ことを、頻繁にしていく必要があります。若者のコミュニケーション能力のなさを嘆くとき、大人である私たち自身が、自分の「コミュニケーション」をふりかえるときでもあると考えます。

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奥 富美子(おく ふみこ)
国家資格キャリアコンサルタント 
きゃりあす 代表
https://www.career-as.com/
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