厚生労働省では、毎年「過労死等の労災補償状況」を公表しています。
ここには、「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」と「精神障害に関する事案の労災補償状況」がとりまとめられています。
平成28年度の「精神障害に関する事案の労災補償状況」では、請求件数が1,586件で前年度と比較すると71件増加しています。そのうち、未遂を含む自殺の件数は前年度との比較で1件減少して198件となっています。
労災として認定された件数である支給決定件数は498件で、前年度と比較すると26件増加し、うち未遂を含む自殺の件数は前年度と比較すると9件減少した84件となっています。
精神障害の認定に際しては、様々な要因が考慮されることもあり、時間外労働時間別(1か月平均)の支給決定件数は、「20時間未満」が84件で最も多くなっています。労災認定基準上の「特別な出来事」として、「極度の長時間労働」とされる「160時間以上」は52件となっています。
出来事別としては、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」すなわち何らかのハラスメントを受けたことを要因とするものが74件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が63件の順になっています。
請求件数は右肩上がりの傾向で推移しており、ストレスチェック制度が施行されたことなどもあり、今後もこの傾向は続くのではないかと思われます。
次に、「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」では、請求件数が825件で前年度と比較すると30件増加しています。
支給決定件数は260件で、前年度と比較すると9件増加し、うち死亡件数も前年度との比較では11件増加して107件となっています。
支給決定された内訳を見てみると、時間外労働時間別(1か月又は2~6か月における1か月平均)では、「80時間以上~100時間未満」が106件で最も多く、「100時間以上」の合計件数は128件となっています。
ちなみに、60時間未満については、平成28年度では1件も支給決定されていないことからすると、長時間労働とは密接な関係があると言えます。
脳・心臓疾患に関する事案については、請求件数、支給決定件数ともに高止まりの傾向で推移しているといえます。
脳・心臓疾患の発症が長時間労働との関連性が強いとする医学的知見があることに加え、平成23年12月に改訂された精神障害の労災認定基準においては、具体的な労働時間数に応じて心理的負荷が高まることが明記されるなど、長時間労働が労災として認定されるリスクを高めることは確実でしょう。
長時間労働に関しては、社会的にも非常に注目を集めているところです。国としても長時間労働対策の強化が喫緊の課題として掲げられています。
管理監督者を含む、すべての労働者を対象とした労働時間の把握について、客観的な方法その他適切な方法によらなければならないとすることを省令に規定することが適当であるとされています。
また、客観的な方法その他適切な方法の具体的内容については、通達において「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が示されて明確化されています。
今後は、これらを参考にしながら、会社として、労働時間というものについて考えていく必要がありそうです。
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中山寛之(なかやまひろゆき)
中山社会保険労務士事務所代表 http://nsr-office.biz/
特定社会保険労務士
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