「集団分析による職場改善」初回の取り組みレポート

はじめまして、宮城県で産業医をしております川住幸子と申します。

今回が初めてのストレスチェックニュースへの寄稿となります。地方での産業医活動を通して得た経験や情報を発信できたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、ストレスチェック制度が義務化されて一年半以上が経過し、2回目のストレスチェックに取り組む事業所も出てくる中で、まだ義務化はされていない、集団分析による職場改善に取り組む事業所がわずかながら出てきました。

今回は、ある事業所で行ったストレスチェックの集団分析による職場改善の取り組みについてご紹介したいと思います。といっても、特別素晴らしい取り組みをした、というわけではありません。むしろ、結論的には「職場改善はやっぱり難しい・・・」ということではあるのですが、今後義務化した場合に、同じように戸惑いや困難を感じる事業所も多いかと思いますので、ご参考になればと思います。

今回、「集団分析結果からの職場改善」に取り組んだ理由は、「本社からやるように指示が来たから・・」という、どちらかというと消極的な理由でした。とは言え、担当メンバーたちは、やるからには何かを得ようと前向きに取り組みました。その際、参考になったのは、ストレスチェックニュースの新井先生の記事(集団分析は”諸刃の剣”!?Part 1集団分析は”諸刃の剣”!?Part 2)です。ストレスチェック後の高ストレス者の面談をしていて、個人のストレス対策だけではなく職場改善の必要性を感じることは多々ありますが、集団分析のデメリットも把握したうえで慎重に取り組むことが、特に初期の取り組みでは必要ではないかと思います。

集団分析を使った職場改善の方法には大まかに次のようなものがあります。

① トップ、安全衛生委員会、事務局メンバーのみで集団分析結果を共有し、改善策を立てる
② 管理監督者にも結果を共有し、管理監督者が改善策を立てる
③ 職場メンバーまで結果を共有し、職場メンバーが改善策を立てる

① →③の順に改善効果は大きくなりますが、②は管理職の負担が増し、時にはやらされ感を感じたり、その結果、改善策と部下の間にギャップが生じる可能性があります。③は成功した場合の効果は大きいものの、メンバーの負担感が大きくなる場合があります。

今回は②、管理監督者による改善策の立案、実施を行いました。臨床心理士さんがファシリテーターとなり、集団分析の結果の見方を解説した後、自分の職場の結果を分析し、管理監督者3人程度を1グループとして、グループ内で結果を共有するグループワークを行いました。

分析により、その職場の「強み」と「弱み(課題)」が洗い出されます。強みはさらに強化し、「弱み」に関しては、「アクションリスト」を使い、具体的な改善策を検討しました(今回使用したものとは異なりますが、こちらの「メンタルヘルスアクションリスト」のように、課題ごとに改善案例を挙げたものです。https://kokoro.mhlw.go.jp/manual/hint_shokuba_kaizen/

シェアリングの場では、意見が出やすい雰囲気作り、特に、出てきた意見を否定しない、課題ばかりでなく良い点にも注目する、誰かのせいにする犯人さがしをしない、といったことを心掛け、例えば特定の個人によるパワハラの疑い、といった問題に関しては、グループワーク終了後に個別対応としました。

管理監督者からの、グループワークの感想は、
・感じていた問題点が数値化されてみることができたので、納得した
・他の人と話すことで、問題が整理できたり、自分にはないアイデアを聞けてよかった
・気が付かなかった問題点がわかって意外だった
といったものがあり、現状を分析、シェアできたことに対しては概ね好評でした。

改善案の立案についての感想は以下のようなものがありました。
・改善すべき課題がわかっても改善策がわからなかった
・とりあえずできそうな、無難な改善案になってしまった(挨拶運動、職場の緑化など)

この点に関しては、まずは「できることから」で十分なのではないかと考えました。課題に優先順位をつけて、その中で、「すぐに取り組まないといけないもの(違法性があるものなど)」「すぐにできるもの(小さな改善で十分)」「みんなでできるもの」から取り組んでいけばいいのではないでしょうか。

今回の職場改善の取り組みを通して、私が感じたのは以下の点です。
① 集団分析結果を使った職場改善を効果的に行うためには、事前に「会社としての改善の意思」をはっきり出すこと。
・ここがあいまいだと、積極的なアイデアが出にくい。

② 負担感、やらされ感が出ないよう、気負いすぎないこと
・初めての集団分析結果の活用に、管理監督者も緊張が見られた
・課題ばかり指摘せず、良い点もほめること、改善策が小さなものでも、地道な積み重ねが大事なので、気負いすぎず取り組むこと。

③ 改善策実施後のフィードバック
・改善策を実施して、どんなに小さな効果でも、良い変化があれば認め合うこと、またそういった雰囲気づくりそのものが職場改善のひとつ。
・初期のうちは「無難な」取り組みでも、ポジティブなフィードバックがあれば、次第に立案にも慣れ、さらなる職場改善への意欲にもつながるのではないか。

というわけで、まずは「無難な」改善案が出た一方で、「まだ具体的には動けないが、改善が必要な課題」も洗い出された今回の取り組みでした。当然、一度の取り組みですべての問題を解決することはできませんが、現状が分析できたことと、職場改善に向けての「はじめの一歩」が踏み出せたことは、職場にとって良い機会だったようです。

「職場改善の好例」は、厚生労働省のサイト内の「ストレスチェック制度の取り組み事例」https://kokoro.mhlw.go.jp/case/stresscheck/stresscheck004/などが参考になると思います。今回は、そのような素晴らしい取り組み例ではなく、取り組み動機も消極的なものではありましたが、実際の初回の取り組み例として、担当者様方のご参考になればと書かせて頂きました。

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川住幸子  日本医師会認定産業医

仙台かわすみ産業医事務所(合同会社メディカルロゼ)代表
http://medicalrose.co.jp/
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