誰も教えてくれない、ストレスチェック制度の7つの真実

 未だこの新しい制度の取り組み方法などについては不明な点が多いです。会社側からはメンタルヘルス不調者の減少につながるのではないか、社員側からは自分の会社がメンタルヘルス対策にもっとまじめに取組んでくれるだろうなど、多くの関係者の希望と期待があるようです。
 しかし、このストレスチェック制度、実施することは大切ですが、過度な期待はできません。その理由を7つ挙げさせていただきます。

ストレスチェック制度の7つの”ない”


1.まだ、いろいろなことが決まっていない、わかっていない
2.厚生労働省も認めるところ、信頼できるエビデンスは、ない
3.病気の診断検査ではない
4.同じ人でも、結果は安定しない
5.受診者が本音を答えているとは限らない
6.過度な期待はしない、できない
7.メンタルヘルス対策は、ストレスチェック制度だけではない

1.まだ、いろいろなことが決まっていない、わかっていない

 2014年6月の労働安全衛生法の改正からはじまり、2015年4月のストレスチェック制度指針の発表、その後もマニュアルやQ&Aが厚生労働省から出されています。次第に現場レベルの声を反映した実践的な内容になってきていると感じますが、いまだに決まっていないことも多くあります。多くの未解決課題は、最終的には、会社ごとに衛生委員会で決定するように、となりそうですが、まだ決まっていないこと、わかっていないことが多いです。

2.厚生労働省も認めるところ、信頼できるエビデンスは、ない

 任意の質問票を特定の組織に行い、そのフォローをすることによって、その任意の集団のうつ病患者数が減った、メンタルヘルス不調者が減ったという内容で、国内外にデータの数、信頼性、再現性のある研究発表は、今のところありません。
 インターネット上で検索すると、数々の“ストレス調査”とその実績を確認することが出来ます。しかし、いずれも、科学的根拠が乏しかったり、専門性の高い学会誌などにのっているものではありませんので、その点は注意が必要です。
 ストレスチェック制度を開始することにより、メンタルヘルス不調者が減るにこしたことはありません。しかし、実施すれば必ずメンタルヘルス不調者が減ると考えるのは間違いです。ただ、今回のストレスチェック制度をどのように活用すれば、メンタルヘルス不調者を減らすことが出来るかを考えることはもちろん大切です。

3.病気の診断検査ではない

 ストレスチェックテストは、からだの健康診断で用いられるような血液検査や画像診断ではありません。また、うつ病等の精神的疾患の有無やその程度を調べるための検査・心理テストでもありません。ストレスチェックテストの判定基準はあいまいで、ストレスチェックテストを実施する実施者により異なる可能性もあります。
 また、異なる質問票を使っているテスト間では、その結果を比較できない可能性が高いことも指摘させていただきます。

4.同じ人でも、結果は安定しない

 ストレスの感じ方は、日々変化します。同じ人でも、時期により、曜日により、前日やその日の朝に起こった出来事などにより、ストレスの度合いは異なります。同じ人でも、異なるタイミングでストレスチェックテストを受検すれば、異なる判定となる可能性があります。
 だとすれば、どのような状態で受検したストレスチェックテストの結果が、その人の「平均的な」「日常的な」ストレス度合いを反映するのでしょうか。誰にもわかりません。

5.受検者が本音を答えているとは限らない

 そもそも、ストレスチェックテストを受検する人は、本当に正直に質問に答えているのでしょうか。ストレスチェックテストの質問は、大人が読めば、どのように答えればストレスが高い、低いと判定されそうかはわかるような内容です。
 たとえ自分がストレスを抱えていても、会社にその事実を隠したいと考えた受検者は、ストレスがないと推測されるように答えるでしょう。
 また逆に、高ストレス者となり、面接指導の結果、就業制限をかけて欲しいと考える受検者は、ストレスを抱えているという答えを選択しがちになるでしょう。
 それ以上に、高ストレス者は面接指導を受けたいと本当に手を上げてくれるのでしょうか。このような意味では、ストレスチェック制度は会社の信用が試されているのかもしれません。まさに、会社の信頼度テストとも言えそうです。

6.過度な期待はしない、できない

 上記述べてきたような理由より、ストレスチェック制度を始めたからといって、会社のメンタル休職者が激減するわけではありません。そのような期待はできません。
 もちろん、ストレスチェック制度の開始によりなんらかのメンタルヘルス対策が多くの企業に導入されるわけですから、職場のストレスの減少、メンタルヘルス不調者・休職者の減少が期待されます。ただし、過度な期待は禁物です。この本当の効果は、まだわかりません。

7.メンタルヘルス対策は、ストレスチェック制度だけではない

 そもそも企業に求められているメンタルヘルス対策は、一次予防としてのセルフケア、二次予防としてのメンタルヘルス不調者等への対応、三次予防として休職者の復職と復職後のフォローの3段階があります。
 今回のストレスチェック制度はこの中で一次予防の部分を占めます。ですので、他の二次予防、三次予防もしっかりとやらなければ、メンタルヘルス対策体制を整えているとは言えません。ストレスチェック制度に気をとられるがばかりに、他の予防がおろそかになっていては意味がありません。一次予防から三次予防までそれぞれに対応することが大切なのです。