労働安全衛生法改正に伴うメンタルヘルス健診、通称ストレスチェックテストが、いざはじまろうとしています。この場を借りて、一般社団法人 日本ストレスチェック協会の危惧することを述べさせて頂きます。
ずばり、この業界の”透明性”と”信頼性”についてです。
2008年4月に、40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象とした保健制度である特定健診(メタボリック症候群、メタボ健診)が始まったときと、同じような空気を感じる今日この頃です。当時、特定健診制度の市場規模は約2,000億から3,600億円程度と見込まれていました。(日本政策投資銀行、今月のトピックス No110-4、2007年6月21日)
2011年度の特定健診、任意健診いずれも受診者増、延べ総受診者数は1億800万人で、同年度の 健診・人間ドック市場規模は約9,200億円であったとされています。
メンタルヘルス健診の市場規模がどれくらいになるかは不明ですが、受診者数は、特定健診・任意健診と同等とすれば約1億人です。また、メンタル法改正を前提とした場合、EAP・メンタルヘルス市場は、2015年に93億円、2020年には147億円になるという予想もあります。
つまり、労働安全衛生法改正に伴うメンタルヘルス健診の開始により、巨大な市場が誕生します。
「対策はとりましたか?」
「御社の安全配慮義務は、新しい労働安全衛生法に対応していますか?」
「メンタルヘルス健診は、とくに注意が必要ですよ!」
等々、企業の人事担当者には、新しいメンタルヘルス健診の制度についての説明会の案内がたくさん届いてきています。セミナーもたくさん開催されています。また、インターネット上にも、上場企業をはじめ様々な企業が、これに関連するサービスを提供している旨の広告が目立ち始めています。当協会へも、設立準備期間中にも関わらず、いくつものお問い合わせを頂いております。
そこで、この場を借りて、我々が危惧していることを緊急で述べさせて頂きます。
1.業界の透明性について
メンタルヘルス健診の判定基準は、高血圧や糖尿病のように、客観的数値をもとに診断がなされるわけではありません。国や学会で定められたような統一基準は、ありません。つまり、ストレスチェックテストを提供する(EAP)企業により、「高ストレス該当」と判定される割合にばらつきがあります。
当然、この判定基準への”介入”は容易に行えます。
上場をはじめ多くのメンタルヘルス健診提供企業は、ストレスチェックテストと同時に、「専門家によるカウンセリング、産業医面談等」を付随サービス(バックエンド)として扱っています。自社の利益を最大化するためには、付随サービスも最大限ご契約ご利用いただきたいと考えているはずです。
そこで例えば、あるEAP企業が、ストレスチェクテストの判定基準を厳しくし、「高ストレス該当」者をたくさん生産することも可能なわけです。もちろん、「高ストレス該当」者たちには、同一EAP企業による「専門家によるカウンセリング、産業医面談等」が会員価格で提供されるわけです。
我々は、メンタルヘルス健診はあくまで一次予防であり、「高ストレス該当」者たちへの対応は別の業者(団体)がやるべきだと言っているのではありません。
この部分の”透明性”を確保することは、この業界の発展性、将来性のため、必要と考えております。
2.業界の信頼性について
従来の健康診断・人間ドック・特定健診と異なり、今回のメンタルヘルス健診は、新たな企業の参入障壁が圧倒的に低いという事実があります。
その理由は主に、以下3つがあります。
- 医療施設、検査機器などの設備投資が不要。パソコン1台で可能です。
- ストレスチェックテスト自体には、医師は不要。質問用紙の配布か、インターネットでのアンケートが主体です。
- ストレスチェックテストの設問において、信頼のできるエビデンスがない(個人レベルのデータ解析的論文はありますが、日本の代表的医学学会が認定するようなもの、国際的に信頼度の高い雑誌に記載されるようなストレスチェックは、まだ、ありません。
そのような結果、メンタルヘルス健診へ参入してくる企業は多く、ストレスチェックテストの信頼性が保たれるのか、危惧しております。
信頼性の低い(ない)テストを実施し、その結果を納得してしまう。これは、企業ばかりでなく、そこで働く従業員達への不利益です。
一般社団法人 日本ストレスチェック協会では、上記2つの問題に取り組み、業界として”透明性”と”信頼性”を確保する方法を探っていきたいと思います。
ぜひ、メンタルヘルス健診提供者側の企業様、担当者様、専門家の先生方のご協力をお願いいたします。近々、勉強会・研究会をはじめますので、ご協力いただけます方は、お問い合わせよりご連絡ください。よろしくお願いいたします。