(第5回) メンタル不調への対応【後編】

●押し付けがましくならないために、「Iメッセージ」

 メンタル不調かな?と思った人に声をかけるとき、大切なのが、Iメッセージです。

 笑顔がなくなった、ぼーっとしている、遅刻が多くなった等々、たとえあなたが気づいている相手の変化があったとしても、それを最初にいうのはNGです。そんなことない!と否定されてしまうことがオチです。

 それよりも、相手をみていて元気がなさそうで「私(I)が心配になっちゃって‥」と、自分の気持を全面にまずは相手に伝えてください。きっと、どうして?ときかれますから、そうしたら、あなたが気づいている相手の変化を何点か具体的に伝えてみてはいかがでしょうか。聞かれてから答えるほうが、相手にとっても嫌な感じはすくないものです。

 大切なのは、こういった症状があるということを伝えるのではなく、「私」は心配ですということを伝えることです。あなたが気がついている変化はあくまでちょっと伝える程度で十分なのです。相手はきっと自分ではいやというほどわかっていますから。

 特に職場の場合、決して、「メンタルかもしれないから、お医者さんに行けば?」などとは言わないでください。上司や人事部だけでなく、同僚から「医者に行け」と言われるのは、多くの場合本人にとっては非常にイヤなことだからです。

●自分が躊躇しないためにも、「治すのではなく、つなぐ」

 実際にいざ声をかけるとなると、なかなか難しいものです。何をどう話せばいいのか、より悪化させてしまったらどうしよう……という不安がよぎるのも無理はありません。

 やさしくて面倒見のいい人ほど、その人のストレスの原因を自分が解決しないといけない、その人のメンタルヘルス不調を治す方法はないだろうか等々考え込んでしまい、声がかけられないでいる傾向があります。しかし、それはNGであることが多々あります。

 状況が深刻ではないケースであれば、相手は「話を聞いてほしい」「自分の辛さをわかってほしい」と思っているケースがほとんどです。しっかりと話を聞いてくれる人がいるだけで、約9割の人は気持ちが楽になりますから、あなたは聞くだけでいいのです。

 私もたくさんの産業医面談をしていますが、実際、相談にこられる人はすでにストレスの原因を9割方わかっています。ただ辛さをわかって欲しい、または、どう対処したらいいのか自分一人ではその方法を見出せなくて困っているから、相談に来るのです。

 注意していただきたいのは、もっとがんばることを推奨することもNGだということです。

 声をかけた人が本当にメンタル不調の場合、すでに自分なりに頑張ってそうなってしまっているのです。そんな状況で「もっと頑張って!」と呼びかけられても、応えられず、辛く感じてしまいます。

 話を聞いてあげること、必要に応じて医師やカウンセラー等の専門家につなぐこと、産業医やカウンセラーのいる会社であれば、「ちょっと相談に行ってみたら?」と声をかけるのもよいかもしれません。

 組織や集団の大小問わず、メンタルヘルスの負の連鎖を断ち切るためには、周囲をケアすることが必要です。このとき、より小さな集団ほど、周囲をケアすることが大切です。墨汁を1滴プールに垂らすのと、コップに垂らすのとの違いを想像していただければわかりやすいかもしれません。たとえ1滴であっても、小さなコップの水はたちまち黒く染まってしまいます。

 まずは身近なところから、不調者に気がついたら声をかけ、ケアしていただけると幸いです。