(第4回)メンタル不調のサインとは? 【前編】

 こんにちは、産業医の武神と申します。私は主に外資系企業で毎年年間1000人を超える働く人と、心と身体の健康相談をしています。

 私たちはこの1年間、新型コロナ感染症とそれに伴う新常態への変化の影響を否応なしに受けてきました。特にテレワークと言う働き方は、程度の差はあれ、多くの人がストレスを感じたことと思います。

 人生も仕事も思うようにはいかないものです。ときには想定外のストレスがかかり、どうにも対応が難しいということもあるでしょう。そんなときにはストレスを〝重症化〟させないことが大切です。そこでここでは、ストレスを重症化させないためにみなさんに知っておいてほしいことを紹介しておきます。

●自分のストレス症状を知っておく大切さ

まずなんといっても大切なのは、自分のストレス症状をよく知っておくことです。

 人は、自らにかかる負荷が自分の許容限度を超えていっぱいいっぱいになる、つまり〝 ストレス〟と感じると、その反応が、心や身体、行動に症状として現れます。

このうち、本人にとって一番わかりやすいのは身体症状(不眠、食欲低下、頭痛やめまい、動悸や冷や汗など)で、わかりにくいのが精神症状(やる気が出ない、億劫、不安、イライラ、憂鬱など)。また、他人にわかりやすいのは行動に出る症状(お酒やタバコの増加、遅刻や早退、会話の減少など)です。

 ストレスによる症状は人それぞれ異なりますが、一度出た症状は次も出る可能性が高く、自分自身に出てくる症状はたいてい決まっています。ですから、自らのストレス症状について知っておくことで、その症状が出たなら、いま自分にはストレスがかかっている、対処が必要だという自覚を持てるようになれます。そこでしっかりと早め早めにストレスに対処ができれば、重症化しないで済むことも少なくありません。

●なぜ、心の症状は見逃されるのか?

 ストレスによる心の症状は、気づかれず、見逃されやすく、また対処されにくいのが実情です。その理由は3つあります。

 1つ目の理由として、「心の症状は、目に見えない」ということが挙げられます。 他人の心の症状に気づくことは、目に見えないがゆえに、難しい。また、自分の心の症状も、目に見えないため、気づきにくいと言えるでしょう。

 自分の心の症状は、さらに2つ目以降の理由も加わり、より気づきにくいとされています。

 2つ目の理由は、心の症状は、いきなり始まるわけではないということです。

 例えば、ある朝、突然イライラが始まるわけではないですし、ある日突然、集中力がなくなるわけでもありません。

 こうした症状は徐々に現れるため、本人は自覚しにくいのです。

 多くの場合、心の症状に理解のあるカウンセラーや医師との問診の中で、「具体的にこんなことありませんか?」と聞かれ、気づかされるケースが多いです。しかし、その点に気づいたからといって、すぐに治療開始とはならずに、以下の3つめの理由に続くことも多いのが実情です。

 3つ目の理由として、自分の心の症状そのものを認めたがらない、または、その原因を精神的なストレスによる心の症状(反応)だとは認めたがらないという点が挙げられます。

 これはエリートや有名企業の社員ほど強い傾向にあります。

 テレワークが多くなってきた新常態では、職場の仲間とのちょっとした会話が減っている人が多いと思います。だからこそ、家族や友人と雑談相談する機会を多く心がけ、もしあれば心の症状を指摘してもらうことが、とても大切なのです。