メンタル不調者が続出する組織の共通点。1万人以上面談した産業医が指摘する「はなす技術」とは?

 メンタル不調者が出ない組織の上長たちは
「みる技術」「きく技術」を持っています。

この上長たちは、相手のことを知らないということを知っており、
相手について「~だろう」と断定した考え方をせず、
「~かもしれない」という柔軟な思考をすることができ、
また、部下の話を遮らず黙って聞き、効果的な質問をできるマインドを持っています。

今回は、コミュニケーションが円滑になされていて
メンタル不調者が出ない組織の上長たちがもつ「はなす技術」
についてお話しさせていただきます。

「はなす」を漢字で書くと、
1. 言葉で相手に伝える「話す」
2. 手放す、握っているものを解き放つという意味の「放す」
3. 距離や空間を分離するという意味の「離す」

 以上の3つの意味があります。

 「放す」と「離す」の2つは、
自分のもっているものをはなす、時間空間的距離をはなすということです。

 とくに会社の上長にとっては部下との距離感として意識していただきたい「はなす」です。

これは部下との単なる物理的・空間的距離感だけではなく、
接する時間や見守る時間という意味での適切な時間的距離感も含みます。
 

 ◆確認と承認、「いる」という言葉

 ハラスメント被害者を出さない、メンタルヘルス不調者を出さない上長は、上手にこれらの「はなす」ができています。

部下と適切な距離感を持って上手に「はなす」ことによって、部下に自主的に動いてもらっています。
はなして相手に任せることが、相手のやる気、そして、相手に主体性を持ってやってもらうことにつながっているのです。

 この時に、“任せる”ことと“ゆだねる”ことを混同してはなりません。

 部下に全部任せっきりであとは放置という上司がたまにいますが、これはよくありません。
上長自身によくわからない業務があって、それを部下に丸投げしたとすれば、それは任せたのではなく無責任に委ねたということです。

 任せているのか、委ねているのか、はたから見ただけでは分かりにくいこともあります。

 そのような時は、上長の部下に対する会話の言葉=話し言葉に注意するとわかることもあります。

 例えば、部下にかける言葉で考えると、この「はなす技術」のある上司は部下に「やっているね」「がんばっているね」と言います。
 「はなす技術」を持たない上司は、「やってね」「がんばってね」と言います。
 この違い、おわかりいただけるでしょうか。

 この「いる」が入っているだけで大きな違いがあります。
 「やってね」「頑張ってね」は、確認の言葉です。
相手を信じる度合いが低い時に使われる印象があります。
相手ももしかして信用されていないかも?と感じている(いずれは感じる)可能性がある言葉です。

 それに対して、「やっているね」「頑張っているね」は、承認の言葉です。

 人は、相手(上長)に見守られている、信じてもらえていると感じたとき、
より「がんばろう」「やろう」と自発的にそう思えるのです。

仕事への意欲や主体性が高まるのは、あくまで部下の自発的な行為です。
できる上司は、この「いる」を上手に使い、部下のやる気、主体性を高めているのです。
そして私の経験上、この”いる”を言えている上長の下ではメンタルヘルス不調者はほとんど出ません。

◆部下に花を持たせる

 実はメンタル不調者を出さない上長、ハラスメント被害者を出さない上長、リーダシップのある上長は、
3つの「はなす」のほかに、もう1つ、「はなす」ができています。

 私は研修等ではあえてそれを4つ目として、花をもたせる意味で「華す」という言葉でお伝えさせていただいています。

 「華す」とは、部下に任せて、そして成功体験を積んでもらうことが、部下の成長や主体性につながるという意味です。
「放す」と「離す」と前述の「いる」という言葉かけができてはじめて、「華す」ということが可能になります。

 リーダーシップのある上長、ハラスメント被害者やメンタルヘルス不調者を出さない部署の
コミュニケーションが上手な上司というのは、部下に仕事をただ任せるだけでなく、
小さいながらも成功体験を積ませるということを繰り返し経験させます。

 もちろん「はなす技術」のある人たちが、常にそういうことを意識しているわけではないでしょうが、
おそらく共通して、成功体験がすなわち主体性をもたせるということができるとわかっているのでしょう。

◆達成感を知っている人は強い

 では、どうやれば成功体験が主体性をもたらすのでしょうか。この間にあるのが、達成感です。
短期間の集中や頑張りで達成感を得たことのある人は短期間に強く、
長期間の努力や積み重ねで達成感を得たことのある人は、長期間に強く、
仲間との協力により達成感を得たことのある人は、協力・仲間・協調性で強く、困難な状況でも、すぐに諦めずに自ら対処して行くのです。
 
 では、達成感を得るためにはどうしたらいいのでしょうか。それは、達成するまで部下にやるしかありません。
上司は部下が達成するまで見守り応援するしかありません。
だからこそ、適切な時間的空間的距離感や、確認ではなく承認の「いる」言葉が用いられるのです。
 
 できる上長から部下は、この達成感を学んでいるのです。
 これらのことを意識して、「はなす」技術を使ってみてください。

 

文責:武神 健之
一般社団法人ストレスチェック協会 代表理事
医師、医学博士、日本医師会認定産業医