小太り産業医:「この会社って寮があるよね?」
人事担当者:「ええ、ありますよ”いしかわ寮”、”さえば寮”、”しば寮”です。」
小太り産業医:「つっこみどころ満載の寮名だなぁ。プロゴルファー、マンガ・アニメの主人公、最後は超一流作家の名前だけど、”たろう”が抜けているよね。」
人事担当者:「その辺はご愛敬で。」
小太り産業医:「よくわからんけど、まあいいや。最近、寮に入っている人がメンタル面談にくるケースがあるけど、いろいろ話を聞いてみると社員寮の良い面と悪い面が浮かんできたんだよ。」
人事担当者:「寮のネーミングセンスの良し悪しについてですか?」
小太り産業医:「・・・。(怒)」
最近、社員寮を持っている企業も少なくなってきていますが、私が産業医をしている会社でも社員寮を持っている企業がいくつかあります。
若い社員に住居および食事を提供することで、栄養バランスを考え健康的な生活をサポートしたり、経済的補助としての役割を担っているのが社員寮の良い面の一端です。他にも集団生活を行うことで生まれる、連帯感や礼節を身につける事ができる、年齢が近いから出来るプライベートや仕事の相談など様々なメリットはあると思います。
実際に寮生活で活気づいている記事もあります。
元気な会社の社員寮~日本郵船&三井物産編 : http://news.livedoor.com/article/detail/7055284/
しかし、ここ最近社員寮ならではの原因でメンタルヘルス不調に陥る若者の面談の機会が数件ありました。彼らの話を聞いていると、社員寮の”功と罪”が見えてきました。
先ほど”功”の部分は述べておりますので、”罪”の部分について述べようと思います。
①仕事とプライベートの”区切り”がない
「こっぴどく怒られた先輩が一緒の寮にいるので、顔を合わせると、どうしてもびくびくしてしまう。」
「寮に持ち帰って仕事をしている人がいて、自分も仕事をしなくてはいけないような気がする。」
「お酒が苦手なのだが、先輩や友人が気軽に誘ってくるから、断るのが大変。」
などなど、私が面談した人から聞いた話の一部です。
この話からも、すぐ理解できますよね。寮にいると”仕事の延長”を感じているのです。先輩や友人が悩みを聞いたり、連帯感を高めるため飲み会に誘ってくれるのですが、続くと人によってはかなり重荷になってしまいます。無理矢理お酒を飲ませると、強要罪に問われます。気をつけてください。
ともかく、仕事とプライベートを”区切る”モノがないため、感情に”区切り”を入れることができずメンタルヘルス不調に陥ってしまう方が多いですね。区切り方は様々ですが、やはり寮や会社からなるべく遠ざかることです。空間を”区切る”ということです。私は経済的に問題なければ、退寮を勧めています。
退寮が難しければ、別で趣味の”仲間”や”居場所”を作るように提案し、休日の日はなるべく寮に居ないで、外出するように勧めています。
残業時間を減少させることが声高に叫ばれていますが、仕事の持ち帰りは褒められた行為ではありません。むしろ、取り締まるべきでしょう。それを見ている周りの従業員はあまり休んだ気にはなれませんし、会社の残業を減らすための意志を疑ってしまいます。
②寮にいると突発的な仕事を依頼される
寮に住んでいる多くは独身です。そのため、何か突発的な仕事が入ってしまった場合、会社から寮に「誰か出てこられる者はいないか?」と電話がかかってくるそうです。これでは、休めません。もちろん、休日出勤が増加する一因でもあります。
過重面談をしていて印象的なのは、突発的な仕事が入ってくることに対して、かなりのストレスを感じる従業員は多いですね。これが続いてしまうと、メンタルヘルス不調に陥ってもおかしくありません。
③寝ようと思っても他の社員の生活音で眠れない
突発的な仕事や長時間残業があったとしても、休めるときにしっかりと休むことができれば、まだ良いと思います。しかし、寝ようと思ったと時に隣の部屋から、大きな音で音楽を流していたり、しゃべっていたりして眠れない、という訴えもありました。他にも交代勤務で朝方寝ようとしても、これから出勤する人たちの声や生活音で眠れないという話しもありました。睡眠は心と身体の修復には欠かせない大事な時間です。それが阻害されると、心身ともに不調が始まってしまいます。
④共用トイレ、風呂に抵抗がある、二人部屋や三人部屋である。
寮によっては、殆どアパートやマンションと同じくらい、プライベートが確保でき、風呂・トイレも別々な所もありますが、共用の所もまだまだあります。最近は一人っ子や潔癖症の若者が増えたせいか、共用風呂・トイレにかなりの抵抗感を感じる方もいます。共用の風呂の場合、入ることができる時間帯も決まっているため、夜遅い時間や好きな時に入れないと苦情を言っている入寮者もいました。
一人部屋ならともかく、一つの部屋を複数の人間で使用している場合はさらに同室者への気遣いが必要になってきますし、それが先輩ならなおさらですね。他にも同室のいびきがうるさくて眠れない、という苦情もありました。同室者を選べませんから。
最近の傾向としては、個々のパーソナルスペースが広くなってきており、そこに他者が入ってくることに対しての寛容性が低下している印象です。これも一人っ子が多い原因かもしれません。
その他にも友達を呼べない、趣味の品(フィギュア、自転車、ギターなど)を置いておく場所がない、など。
昔の寮生活といえば、楽しい思い出が浮かぶ人が多いと思いますが、時代は変化します。実際に企業の寮も減ってきていますね。
会社の不動産として、そして若い従業員のための福利厚生として残していくか、企業判断が必要になるかもしれません。
人事担当者:「次に寮を作るときはプライベートを確保できるように設計します。そしたら、希望者も増えると思いますね。」
小太り産業医:「その寮の名前は何にするの?」
人事担当者:「”たむら寮”かな。」
小太り産業医:「俳優の?ロンブーの?」
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文責:新井 孝典
一般社団法人ストレスチェック協会 理事
日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタント
株式会社なごや産業医事務所代表取締役
https://www.facebook.com/dr.occupational.physician
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