(第1回)在宅勤務はメンタル不調が起きやすいのか?【後編】

 「在宅勤務でメンタル不調になりやすい3つの理由と処方箋」【後編】

 在宅勤務におけるメンタル不調の3つめの要因は、不規則になってしまった生活習慣から“調子”を崩し、上手にコロナ禍の変化に適応できないというものです。
 不規則な生活習慣とは、家から出なくなる巣ごもり状態が引き起こす運動不足睡眠習慣の変化、崩れた食生活の3つに代表される生活様式の変化です。
 在宅勤務下では、通勤やオフィス内での移動などで動いていた日常の歩くという行為が減ります。その結果、肉体疲労が少なく寝付けない、そこからくる夜更かし、そして朝は通勤がない分いつもの時間に起きなくなる人もいます。在宅勤務の結果外食が減り健康的な食生活になった人がいる一方、レトルト食品に偏ったり、カロリーオーバーな食事が続いている人たちもいました。そして、このような日が続くと基本的な生活リズムが崩れます。
 心身ともに万全ではない状態にある人は、在宅勤務や出社、自粛やGo To等々のたびたびなる変化に上手に対処適応できないことが多く、その結果として間接的にメンタル不調になってしまう。私個人の産業医面談経験では、昨年夏以降はこのパターンが多かったと感じます。新型コロナ感染症がメンタル不調の直接の原因になった人の倍はいたと感じます。

 約1000人の在宅勤務者との産業医面談を通じて分かったことは、新しい働き方である在宅勤務に対する好き嫌いは、いろいろだということでした。
 通勤がなくなり喜ぶ人もいました。家での居場所(在宅勤務場所)がなく肩身が狭い気分になる人もいました。ある人は子供と過ごす時間が増えたことを喜びますが、ある人はそのためにストレスが増えたと嘆き、在宅勤務におけるストレスも十人十色と感じました。
 そして、在宅勤務を前向きに受け入れている人は、コロナ禍でもメンタル不調になりにくく、在宅勤務への不平不満を言い続ける人は、メンタル不調になってしまうリスクが強いというのが、産業医としての見解です。

 在宅勤務は、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方で、ワークライフバランスの実現へ寄与することが期待されている働き方でもあります。しかし、慣れない在宅勤務が続くと、ついつい戸惑ってしまう人がいることも事実です。ストレスが溜まってしまうのは、ある意味仕方がないことです。
 在宅勤務で通勤がないからといって、通勤時間も机に向かい、いつも以上に働かなければならないことはありません。家にいるからといって、いつも以上に家事をしたり、いつも以上に食事にこったりしなければいけないわけではありません
 通勤で減った時間は、自分が在宅勤務にしなやかに適応するために使う。例えば朝や夕方に散歩に出かけることを習慣化する、室内でできる趣味を増やす、このような方向に考えることができる人は、在宅勤務が続いてもメンタル不調にならずに、コロナ禍にしなやかに対処できていると感じます。