Bさんは、小学2年生の男の子を持つ40代のベテラン男性社員でした。
緊急事態宣言中は家族全員在宅で過ごしました。
日頃、お子さんとも接する時間が少なかったため、
在宅勤務の2カ月間は家族の絆を再確認し、
家庭内ではストレスのない時間を過ごしたようでした。
6月中旬になりBさんの会社でも出社が始まりましたが、
部署・業種ごとに出社か在宅かが決められました。
たまたまBさんの業務は出社することが求められましたが、このことが腑に落ちず、
在宅組の同僚を羨んだり、
自分を出社組にした上司を妬んだり、
の気持ちがあり、7月に産業医面談に来られました。
面談では、引き続き在宅勤務の同僚達の家族構成や家庭事情を引き合いにだし、
子供がいる自分こそが在宅となるべきだと主張するBさん。
よくよく状況をきくと、コントロールのできない怒りやイライラのため、
家族に怒鳴るようになってしまったことや、
寝付けないことが増えてきているとのことでした。
冷静になれば、上司が当て付けではないこと、
ご家族は何も怒られるほどのことはしていないことはわかるようでした。
Bさんには、しばらくはカウンセリングに通うことをご提案しました。
このような面談者の声をたくさん聞く中で、私自身は、
いずれにおいても、その社員個人にとっては、
その社員の価値観・ワークライフバランス観に基づく行動判断であり、他人が正しいや間違いという尺度で
測り判定できるものではないと言うことを気がつかされました。
新型コロナ感染症のある状態(新常態)で
コロナうつにならないための魔法のワクチン(予防薬)はありません。
自分の価値観にあった形での出社や在宅勤務ができる新常態であっても、新しい生活様式に適応するのは、
時に簡単にいかないことがあります。
自分が適応できるまでは誰でもコロナうつになる危険が高い時期ですから、
健康的な食生活と睡眠により、規則正しい生活をすることに尽きます。
一方、出社したくないのに出社、または、仕事がはかどらない在宅勤務の継続など、
不本意ながらの新常態を迎えている人は、もう少し注意が必要です。
不安やストレスを感じながらも、新常態にいずれ適応できる人はいいのですが、産業医としての私の経験上、
他社他人の新常態を羨み、妬み、ひがむ傾向がある方は、新常態の中でメンタルヘルス不調、つまりコロナうつになってしまうようでした。
観劇や卓球など、室内での趣味を持っていた人は、
コロナ前のように継続は難しい場合も多々あるようです。
その場合は、新しい生活様式に合う形での新しい趣味・好きなことを作ることもお勧めしています。
好きなことをしている間は、色々なしがらみを忘れられます、
気持ちの良い楽しい時間を過ごせます。
そんな日は、きっとよく眠れるでしょう。趣味はいい気分転換になります。
これがコロナうつに対する予防薬や処方箋になります。
多くの人にとって、緊急事態宣言の約2カ月間は、これまでに
自分が無意識的に持っていた価値観、ワークライフバランス観などについて、
見つめ直すきっかけになったようです。
緊急事態宣言後の現在、自分の新しい価値判断や優先順位は、
ぜひ大切にして欲しいと思います。
そして、まずはそれぞれが自分の新常態に適応することが大切です。
しかし、同時に、他人の新常態も、つまり
他人の新しい価値観も、ぜひ尊重して欲しいと感じます。
新型コロナウイルス流行やそれに伴う外出自粛や休業要請によって、実際にどれくらいの人が
うつ症状など精神面での不調を感じているのか、
厚生労働省はメンタルヘルス全国調査を行う方針のようです。
その結果は興味深いです。
しかし、同じ状況にありながらも、
外出自粛や在宅勤務などの新常態のポジティブ面を感じており、
コロナうつにならない人たちがいることも事実です。
厚生労働省の調査では、不調になる人とならない人の違い、
不調にならない人たちに共通することなど、
ポジティブ面での要素、ファクターXを出てくることを願ってやみません。