今だからこそ注意したい「コロナうつ」対策【前編】

新型コロナ感染症の影響で、米国では45%に上る人が精神的苦痛を感じるとのデータがでました。

日本でも、厚生労働省によると、4~5月に精神保健福祉センターへ寄せられた
新型コロナに関する心の健康相談が急増したとのことです。
その内容は、「眠れない」「不安で心がおかしくなりそう」「外出自粛でストレスがたまる」
といったものが目立ち、40~50代の相談が多かったとのことです。

コロナうつという言葉が生まれるなど、新型コロナ感染症は、
多くの人の心にも悪影響を及ぼしているようです。(2020.7.27.日経新聞https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61932630X20C20A7CE0000/

年間1000件以上の働く人との産業医面談をやっている私も、
新型コロナの影響で3月から在宅勤務での産業医面談が主体となりました。
そして、7月現在でも業務時間の約7割を在宅で行っています。

やはり面談内容は新型コロナ感染症に関する質問や不安、
在宅勤務や同居家族のストレス等の相談、通勤の不安や自分の状況を上司がわかってくれないなど、
新型コロナに関するものも多くあります。

そこで今回は、コロナうつの対策になる予防薬処方箋
産業医の現場経験から書かせていただきます。

都内の会社に勤めるAさんは、入社15年目の働き盛りの40代後半の女性でした。
Aさんは会社から1時間以上離れた他県に、母親と二人で暮らしていました。
緊急事態宣言で彼女も同僚と同じように在宅勤務となりました。

初めのうちは、通勤時間がなくなったことや通勤電車の感染
リスクなどが避けられることなどで、多少の仕事の不便さ(パソコンの画面が会社より小さい)は
あったものの、在宅勤務自体をとても好意的に捉えていました。
お母様も娘が日中にならないことを喜んでいました。

しかし、在宅勤務が2ヶ月続くと、次第に、毎日ずっと接するのは
母親のみの生活に息が詰まる感覚を感じ始めました。

また、緊急事態宣言があけて出勤が始まったら、通勤時間の長い自分が無症状で
感染して家にコロナを持ち込んでしまうのではないかと、
毎日テレビを見ている母親がとても心配しだしました。

Aさんはそのような心配はなかったのですが、この話を友人にしたところ、
お母様の不安は当然でそう思わないAさんが信じられないという趣旨のことを
言われてしまい、自分は酷い人間なのかと悩み産業医面談に申し込まれました。

実際に産業医面談では、私の面談経験として、
同じ状況でも不安に思う人も思わない人もいることや、
お母様はもしかするとAさんが日中にいなくなってしまうのが
寂しいのではないかという考えもあることを知り、Aさんは少し落ち着きました。

私のクライエントでは、6月から全員出社が始まった企業がある一方、
9月末まで全社員在宅と決まった企業もありました。

このような極端な具合ではなく、6月は50%程度の出社率ではじめ7月から
100%出社を目指す企業がある一方、
12月までは20%の出社率で調整することで決定した企業もありました。

出社がほぼ会社命令で絶対の(雰囲気の)企業もあれば、自由度が高く、
社員の意思が尊重される企業もありました。

社員は社員で、出社することを、“在宅”からの開放と喜ぶ人、
通勤を嫌がる人、業務が捗ると喜ぶ人がいるいっぽう、
仕事は家でもできるとわかり出勤を嫌がる人、
上司と顔を合わせるようになることを煙たがる人、等々色々な声がありました。

同じ会社においても、子供が家にいるので在宅を希望する人は多数いましたが、
そのお子さんが未就学児や小学校低学年から、高学年までと様々でした。
小1の子のために在宅を継続したいという社員と、
中1の子や猫のために在宅でありたいと必死に主張する社員、様々な理由がありました。

子供がいなくても、通勤時に無症状で感染し、同居する高齢ご家族やペットの猫へ移してしまうことを心配する声もありました。

このような最近のコロナに関する産業医面談を通じてわかったことは、
新常態とは、人ぞれぞれにとって異なる」ということです。

これを受け入れている人はコロナ禍でもメンタル不調になりにくいです。

一方、“私”の新常態は“他人”も同じ、または“他人も理解してくれるはず((理解すべき)”と思っている人は、
コロナうつになってしまうリスクが強いというのが、産業医としての見解です。