管理職を希望しないということ

小太り産業医:「人間というのは、能力に見合った地位とがあると思うんだよなぁ。」
人事担当者:「まあ、先生の今のポジションは過大評価されていると思いますけど。」
小太りさん産業医:「はあ?何言ってんの?かなり貢献してるぞ!」
人事担当者:「そうかもしれませんねぇ。ただ、家族内での地位はどうですか?」
小太りさん産業医:「・・・。いやいや、家事におけるマネジメントは妻の方が高いから。」
人事担当者:「家族における地位は完全に見合ってますねぇ。」
小太りさん産業医:「会社ぐらい評価してくれないと、心のバランスがとれないの!」

小太り産業医は家庭内におけるマネジメントは、全く能力がありません。
なので、妻の指示で動くプレーヤーとして活躍している”つもり”です。

以前に、「降格希望者に潜むかもしれない発達障害」をストレスチェックニュースでお伝えしていますが、
なにも発達障害の疑いのある方ばかりが降格希望や昇進拒否をするわけではありません。
これから紹介するのは昇進拒否したにも関わらず、会社都合によって昇進させられ炎上している二人です。
ただ、この二人には全く違う結末が待っていました。

①自責型昇進拒否
IT企業に勤める50歳男性のAさんです。
彼は自分が入社以来育ってきた部署から、他部署に主任として異動しました。
しかし、初めての仕事や人間関係になじむことができず、
本人の強い希望により元部署に戻ってくることになったのです。

その際に会社から、
「”年齢的”にも課長として頑張って欲しい」といわれましたが、
本人は自分の能力的には難しいと拒否しました。

しかし、会社は元職場に戻す条件として課長職を提示してきたので、受け入れざるを得ません。
Aさんは仕方なく、課長職を受け入れました。
元職場に戻ったAさん、IT業界は光陰矢のごとしです。
元職場に戻ってきたとはいえ、ほぼ浦島太郎状態になっていました。
何とか手探りで、慣れようと頑張りますが全て裏目に出てしまい、
部下から「使えないおじさん上司」というレッテルを貼られてしまいます。

部下からの突き上げ、追いつけないスキルなど
プレイングマネージャーとしての自己承認欲求が満たされるどころか、
崩れていってしまい最終的に「適応障害」と診断され、休職に入ってしまいました。

休職前から、面談を行っていた時のAさんの口癖は、
「自分にはマネジメントのスキルは全くない。目の前の仕事を淡々とこなすしか能がない。」と言っていました。
3ヶ月程度の休職期間が終わり、復職面談の時には「降格して復職希望」と訴えてきました。
産業医としては、降格が適当と判断して会社には具申したのですが、
人材不足であることから、課長職として復職させてしまいました。
再発しなければ良いのですが・・・。

②放置型昇進拒否
製造業に勤める46歳のBさんです。彼はいままで何度か昇進を断ってきていました。
理由は「自分にはマネジメント能力が完全に欠如しているから」です。
ある意味、Bさんは自分自身の能力を理解していたのです。

Bさんが勤める会社は年功序列をいまだ重視していて、徐々に断り辛くなってきました。
さらに、奥さんからのプレッシャーもあり、昇進を受け入れチームリーダーとなりました。

さて、ここから彼の部下達が倒れていきます。
もともと、やる気がなく苦手なマネジメント業務。
最初の内は何とか、部下達に配慮したながら仕事をしていました。
しかし、徐々に放置状態に・・・。

人間関係の調整、仕事量の配分、教育など管理職には多くの仕事があります。
Bさんは「できないことは、できない!」と開き直ってしまいました。
その結果、チーム5名中2名がメンタル不調に陥り、休職となります。
さらに、そのうち一人は退職してしまう事態に。

他のチームメンバーも過重労働で体調を崩すなど、チームは崩壊状態になってしまうのです。
結局、会社はBさんを降格させました。
私は産業医として、このチームの数人を面談した後のフィードバックの際に、
Bさんと何度かお話ししましたが、「できないことは、できない!」のスタンスは崩れませんでした・・・。

最近は、「国務大臣の適材適所を考慮し・・・」なんて言葉を聞く機会が多くなりました。
会社でも、人を適材適所に置くことは理想です。
ただ、本人が強く拒否しているのに、その地位に付けさせるのはどうなんでしょう?
本人か部下がメンタル不調に陥ってしまう可能性があります。

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文責:新井 孝典(あらい こうすけ)
 株式会社 なごや産業医事務所:http://nagoya-sangyoui.com/
 代表取締役 所長
 認定産業医/労働衛生コンサルタント
 認定内科医/循環器内科専門医
 日本ストレスチェック協会理事・ファシリテーター
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