相手の立場に立ったコミュニケーションの効果

自分の生活習慣や仕事の仕方など、何かを改善しなければならないとき、
他人から頭ごなしに言われると腹が立ち、
口では「はい、わかりました」と言っていても心の中では反抗心でイライラ・・。
あるいは逆に、上司として部下のミスを注意したら、こちらが正しいはずなのに部下がふてくされている、
思ったように動いてくれない・・。
会社であったり家庭であったり、誰もが一度はそんな経験があるのではないでしょうか。

寓話「北風と太陽」で示されるように、人は頭ごなしに行動を要求されると、
それが正論であっても受け入れられないことがあります。
他人に言われて動くより、本当は自分が「納得」して動きたいからです。

先日、ある会社での受動喫煙防止対策に関する会議で、上記のようなことを感じるやり取りがありました。
その会社では、屋内を禁煙とし、外に喫煙場所を設けることにしましたが、その設置場所について、意見が割れていました。

・Aさん(非喫煙者)の意見
屋内禁煙となった上に、建物から遠い場所に喫煙場所を作っては、気の毒だ。
雪の季節も考えて、建物のすぐ近くに作ってあげたい。
→しかしその場合、設置場所が窓や出入り口の近くになり、においや煙の屋内流入の可能性が完全に0とは言えません。

・健康管理室メンバーBさん(非喫煙者)
建物から10m以上離したところに設置したい。雪などはやはり気の毒なので、経費は増えるが屋根を付けるとか、対策をしよう。
不便で申し訳ないが、それをきっかけに禁煙する人が出るかもしれない。
それはそれで、その方のためになるということではないか。

もちろん、Bさんの意見に産業医としては賛成だったのですが、少し議論の様子を見守っておりました。
AさんもBさんも、「こうしたい!」という思いはあるのですが、
非喫煙者として、「喫煙=悪」と切り捨てず、どちらも「喫煙者の方はどう感じるか」という視点を考えたうえで、
お互いの意見を交わしていました。

議論が白熱する中、いつもは喫煙者代表として積極的に発言するCさん(ヘビースモーカー)が黙っていたので、
Cさんに意見を求めました。すると、
Cさん「みなさんの判断にお任せします・・・。」と神妙なご様子。
結果、Bさんの意見が採用となりました。

会議が終わってCさんが話しかけてきました。
「禁煙しようと思うので、禁煙外来について教えてください。」
突然どうしたのかと聞くと、
「今まで喫煙は自分の勝手だと思っていた。でも、あれだけ、みなさんがあれこれ考えてくれる。
なんだかその手間暇をかけさせてまでタバコを吸うことに違和感を感じるようになった。」
と。

頭ごなしに、喫煙は迷惑だし配慮する必要はない、建物から遠くに作ればよいではないか、
と言われたら反発なさったかもしれません。
しかし、非喫煙者のAさん、Bさんともに喫煙者の立場になって考えたうえで、
社員の健康のために検討する姿勢が伝わり、Cさんの禁煙意欲に火をつけたのでした。

ミスなどを指摘するとき、
「なんでこんなことしたんだ!」と叱られるのと、
「〇〇だからこういうミスをしたんだね。それはわかった、でもね・・・」
と話されるのとでは、
やはり、ほんの一言でいいから相手の立場になった言葉が入っている方が、
相手は自ら受け入れ、気づき、行動につながりやすくなります。

また、「自分のことをわかってくれている」と感じると、人は無意識に相手の思いに応えようとするものです。
人間関係がうまくいかない、と感じるときは、ほんの一言、いつものコミュニケーションに相手の立場になった言葉を、
付け加えてみましょう。

Cさんのように、喫煙者にとって不利な喫煙場所をすすんで受け入れるどころか、自ら禁煙を宣言する、そんな思いがけない効果も生まれるかもしれませんよ。

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川住幸子  日本医師会認定産業医

仙台かわすみ産業医事務所(合同会社メディカルロゼ)代表
http://medicalrose.co.jp/
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