みなさん、こんにちは。キャリアコンサルタントの奥 富美子です。
ジメジメとした雨の日が続きます。梅雨はいやだなぁと思いますが、梅雨が空ければ真夏がやってきます。就職活動生も、夏休み前には内定をもらいたいと、がんばっています。
キャリアサポートセンター(昔の「就職課」に相当する部署)の廊下の壁一面に求人票が貼ってあります。あるとき、壁をじっと眺めている男性に出会いました。学生よりはだいぶ年長の方に見えました。20代だけが学生とは限りませんので、学生の可能性もあります。キャリアサポートセンターには企業様の訪問もひっきりなしにあります。しかし、普段着で立つその姿は、企業の方とは印象が違います。声をかけてみると、キャリアサポートセンターに用があり待っているとのことでした。キャリアサポートセンターの職員はみな、学生と面談中でした。
その方は保護者でした。息子の就職活動が心配で、話を聞きに来たのでした。いま、こうした保護者は珍しくありません。どの大学でも起きている現象です。「子どもの単位がどうなっているのか、就職活動はしているのか、うちの子は大丈夫なのか」などを、子ども本人に聞かずに、大学を訪問してしまうという状況です。家庭内コミュニケーションが無いのです。
キャリアサポートセンターに突然いらして、「子どものことで・・・」と話し始め、途中から話が自分の会社のことになることもあります。会社「名」自慢です。誰もがその名を知る大企業です。知名度のある会社「名」のところに子どもを入社させたいようです。
「妻に任せているのに・・・」と、妻への愚痴を延々と言いつづける方もありあます。愚痴のなかに「俺はスゴイ」と自慢をちりばめます。聞こえてくるのは、本人が自覚していない自分に対する自信のなさです。
内定をもらっても「そんな会社知らない。断りなさい!」と言い放つ親も少なくありません。親自身の就職活動経験をもとに、アドバイスではなく、強要するのです。時代が違います。社会は変化しています。
「子どもは親の言うとおりに動くべき」と思いこんでいる親に育てられた子どもには、親に対抗する意思も気力もやり方も備わっていないことが多く、言われた通りに「内定を断る」行動をしますが、そのあとが大変です。順調にいかない就職活動に本人は焦り、親は「ちゃんとやってるの?」と攻め立てる。本人はどんどん自信を無くし、精神的に落ち込み、「就職活動停止」となる例を少なからず見てきました。
就職活動が活発に進まない学生の背景に、こうした親の存在があります。見守り、応援してくれる存在でいてほしいのですが、そうではないことが多いです。往々にして「親が決める」ので、「子ども本人は決められない」人に育っています。子どもは就職活動の波にだけは乗ろうと必死に動いていますが、自信のなさを抱えたままなのでうまくいきません。
しかたありません。小さなときから「○○ちゃん、何にする?○○ちゃんは、コレがいいわね。コレにしなさい」とファミリーレストランで自分が食べるものでさえ、親が決めてきたのです。「自分が考えて自分で決める」機会を得られずに育ってきたのですから。
しかし、就職活動は、「自分自身と向き合う」ことの連続です。「初めまして」の大人とばかり会う「自己紹介」の連続です。「自分のことを自分の言葉で語る」ことが必要です。
日本ストレスチェック協会のメンタルヘルス入門講座「みる・きく・はなす技術」は、企業内の上司と部下の関係におけるコミュニケーションを取り上げていますが、親子関係にも当てはまります。親は、子どもの様子や変化をよく観て、気になることがあったら声をかけましょう。でも、無理やり聴きだすことはしません。話したくなれば、子どもから言ってきます。そうしたら、傾聴です。文句もアドバイスも一旦は横に置いて、聴くに徹します。十分に話を聴いてからすることは、「~しなさい」と指示命令ではなく、「~は考えてみた?」など、考える幅を広げるような問いかけです。本人が「考える」ことが重要です。
いつからでも始められます。子どもが、思い通りにいかなくても経験として積み重ねて力にすることができるよう、親は、「子どもの代わりに就職活動をするのを止める」ことにしましょう。「子どもを支援する人」と自覚し、子どもの精神的支えとなれるような「日常の働きかけ」を習慣とします。笑顔をむけたり、「行ってらっしゃい」「荷物が重くて大変だね」「毎日頑張っているよね」と優しく声をかけたり、「おかえり~。今日はどうだった?」とときどき聞いてみたり。子どもが、「まあまあ」などと一言で返事が終わってもしつこく追いかけないようにしたり。習慣の第一歩は、今からです。
——————————————————–
奥 富美子(おく ふみこ)
国家資格キャリアコンサルタント
きゃりあす 代表
https://www.career-as.com/
——————————————————–