ブラック職場代表、医療機関でのストレスチェックをどうするか?①

小太り産業医:「人事担当者君、3月8日付けで厚生労働者から一通の通達が出されたんだ。」
人事担当者:「どんな、通達ですか?」
小太り産業医:「一般企業ではあまり関係ないけど、”法人代表者が自らの事業場の産業医を兼任することは禁止”となったんだよ。」
人事担当者:「どういうことですか?」
小太り産業医:「まあ、そこのトップが産業医を兼任すると、健康管理コストをないがしろにする可能性があるから、産業医を兼務してはダメとなったんだ。」
人事担当者:「だったら、ストレスチェックの実施者もそうですよね。」
小太り産業医:「もちろん。既に実施者も院長などの人事権を持つ人間が就くことを禁止しているよ。」
人事担当者:「そっか、親父に教えてあげよう。その時は先生、うちの病院の産業医をお願いしますね。」
小太り産業:「えっ・・・。」

この話は以前にもお話ししていますが、改めて通達がだされ、再度このテーマでお話ししようと思います。
ストレスチェックにおける実施者の当該事業場の人事権を持つ人間はその任に就くことができません。つまり、医療機関の院長などは実施者に就けないことは、厚生労働省のストレスチェック制度 Q&Aの17ページに記載があります。

Q6-5 病院長がストレスチェックの実施者となることや、面接指導を実施することは可能でしょうか。なれない場合は、誰が実施すればよろしいのでしょうか。

A 病院長は一般的に人事権を持っていると考えられるので、ストレスチェックの実施者にはなれません。このため、人事権を持っていない、他の医師や保健師、一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士から実施者を選ぶことになります。
一方、面接指導の実施については医師であれば制限はしていませんので、病院長が携わることは、法令上、問題はありません。
ただし、病院長が面接指導の実施者になることにより、労働者が申出を躊躇したり、適切な事後措置がなされないおそれがあるような場合には、制度の趣旨に合致しないこととなるので、適切な運用がなされるように面接指導を実施する医師を選定していただきたいと思います。
とあります。
さらに会話にあったように、労働安全衛生規則の一部が改正され、「法人の代表者などが、自らの事業場の産業医を兼任することが禁止になる」という内容です。
厚生労働省は、この答申を踏まえ、速やかに省令の改正作業を進めるとのことです。
(平成28年3月公布、平成29年4月1日施行予定)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000115152.html
産業医の兼任禁止は一年の猶予があるにしても、医療機関は健康管理を担う産業医やストレスチェックの実施者を外注する時代になってきたのではないでしょうか。

考えてみてください。

自分のメンタルヘルスが心配になったとき、同じ病院で働く医師が産業医として面談するとしたら、貴方は面談を希望しますか?そして、躊躇無くいろいろお話しできますか?普通に考えたらできませんよね。
ストレスチェックの実施者は全ての結果を知っています。そんな実施者が人事権を持たない医師、保健師、看護師でもそれが同じ病院の職員だったら?
面接指導医が同じ病院の医師なら、高ストレス者は手を挙げるでしょうか?

どちらも、とってもイヤなことですよね。
こんな状態でストレスチェックを行っても、とても有効だとは思いません。
さらに日頃の健康管理やメンタルヘルス対策もこのような状況ではとても万全と言えないでしょう。
コストは掛かりますが、離職と募集の繰り返しのコストを考えると、外注した方が良いのでは?と私は思います。

”人を健康にする仕事に従事する人達の心身の健康が守れなくて、他の人を健康にできるか?”
”自分に余裕が無いのに、患者にいつまで優しく接することができるのだろう?”
次回はなぜ病院がブラック職場なのかを話します。

小太り産業医:「人事担当者の実家は病院なの?」
人事担当者:「ええ、そうですよ。全国に展開している病院グループのトップですよ。言ってませんでしたか?」
小太り産業医:(だからコイツはいつも私に上から目線なんだ・・・。)

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文責:新井 孝典(あらい こうすけ)
 株式会社 なごや産業医事務所:http://nagoya-sangyoui.com/
 代表取締役 所長
 認定産業医/労働衛生コンサルタント
 認定内科医/循環器内科専門医
 日本ストレスチェック協会理事・ファシリテーター
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