集団分析は”諸刃の剣”!?Part1

人事担当者:「先生、今日はお疲れですね。」
小太り産業医:「先週は、人事担当者さんも参加されたストレスチェックセミナーでしたから。」
人事担当者:「参加者は皆さん熱心でしたね!!私は中でも集団分析についてはハッとしました。」
小太り産業医:「集団分析は努力義務なのでやらなくても良いのだけど、しっかりやれば職場環境改善に繋がるし、やる”だけ”ならリスクになりますよ。」
人事担当者:「会社や職場の事情を考えて、導入を決めなくてはいけませんね。」

先日、日本ストレスチェック協会主催のセミナー講師を務めました。参加者の皆さんは大変熱心で、様々な具体的な質問が出ていました。
セミナー後のアンケートに集団分析について書いて頂いた方が数名いました。
”EAP業者に勧められたけど、このセミナーを受けてリスクをちゃんと考えるようになった。”
”リスクを考えても我が社では導入した方が良いと思った”
などなど。
セミナー受講者の声
その1 : http://jsca.co.jp/20150528-2seminarkansou/
義務ではなく努力義務のため、導入を悩んでいる企業も多いと思います。また、コラムの泉での最初の投稿では割愛した話題です。
そこで今回は小太り産業医が考える「集団分析のリスク&ベネフィット」についてお話しします。

・そもそも集団分析とは?

ストレスチェック義務化の目的の一つに”ストレスの原因となる職場環境の改善につなげる”が挙げられています。つまり集団分析とは組織分析です。
実施者(産業医、保健師など)は、個々のストレスチェックの結果を「部」「課」「職種」「役職」などの単位で集計し、集団としてのストレスの特徴や傾向を事業者に示すことが努力義務として求められています。そして事業者は、その分析や結果を踏まえた上で、職場環境の改善など、必要な措置を講ずることが、同じく努力義務として課せられています。

労働者の心の健康の保持増進のための指針
(平成12年厚生労働省)
①従業員一人ひとりによる「セルフケア」
②会社の管理職による「ラインケア」
③「事業所内の産業保健スタッフによるケア」
④社外の「専門機関によるケア」

上記はメンタルヘルスケアの基本的な考え方である「4つのケア」です。今回のストレスチェック制度の第一の目的が”一次予防を主な目的とする(労働者のメンタルヘルス不調の未然防止)”があります。これは、「セルフケア」でしょう。そして第三の目的である”ストレスの原因となる職場環境の改善につなげる”が「ラインケア」であり集団分析と考えます。
セルフケアは義務化されているのに、ラインケアは努力義務とは・・・、疑問が残ります。メンタルヘルスケアにおいてPDCAをしっかり回すためにも両方が必要なのでは?と小太り産業医は考えます。

・集団分析をお勧めする職場

では、私は以下のような職場であれば積極的にクライアントに集団分析を勧めています。
①休職者・離職者が多い職場
言うことはないでしょう。職場改善が必須ですね。

②種々のハラスメントがある職場
パワハラ、セクハラなど本人は言えなくても、周囲が感じていたりします。該当者には事情聴取が困難な場合は俯瞰的に分析してみては。

③人事権が及ばない職場
看護師など特に病院は特殊技能を持った職種の集まりであり、それぞれの人事権はその部門のトップが握っています。そのため徒弟制度強く残り、閉鎖的であり何か問題が起きてもなかなか表に出てこないことが多く、結局当事者が退職してしまうことが多々あります。看護師を補充するために、広告を出してさらに教育するまでに一体どのくらいのコストがかかるのでしょう。それならば、長く働いてもらうためにも、そして閉鎖的な人事に蟻の一穴を開けるためにも集団分析はツールとして機能するのではないかと考えます。
例に看護師の職場を書きましたが、同様の職種は多くあると思います。

④感情労働が主となる職場
感情労働という言葉はご存じでしょうか。
肉体労働、頭脳労働に続く最近提唱されている労働形態で、平たく言えば「相手(=顧客)が気分良くなるように自分の感情をコントロールし提供して賃金を得ている職種」です。例えば看護師、CA、ウェイター、苦情コールセンターなどなど。どうしてもメンタルの歪みを生じやすくなります。個々のフォローも大事ですが、全体としても改善も大切です。

さて、今回は長くなりましたので前半後半に分けます。
前半は諸刃の剣について全く論じておりませんでした。すいません_(._.)_
後半にお話しします。

先日、我々日本ストレスチェック協会で開催したセミナーの内容をブラッシュアップし、ストレスチェック制度対応の超実践本を出版する予定です。私も著者の一人です。
このコラムで書いた内容もさらに実践的にグレードアップします。自分で言うのも何ですが、初版版は売り切れるかも(^_^;
このため、コラムの遅筆をご容赦頂きたいです。

文責:新井 孝典
一般社団法人ストレスチェック協会 理事
日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタント
株式会社なごや産業医事務所代表取締役
https://www.facebook.com/dr.occupational.physician