メンタル休職者が災害ボランティアに行ってみた。

小太り産業医:「この夏の大雨・台風や地震でいろんな所で被害に遭われた方々は本当に酷暑の中、大変な思いでしょう。」
人事担当者:「先生にもそんな気持ちが湧いてくるんですね。初めて知りました。」
小太り産業医:「私だって、ニュースを見ていたら、いろいろ感じてしまうよ。」
人事担当者:「実はボク、災害ボランティアに行ってこようかと思っています。」
小太り産業医:「偉いねぇ~。」 人事担当者:「行ったら、有名人が来ている時に会えるかなぁ・・・って。」
小太り産業医:「動機が不純で幼稚すぎる・・・。」

ふざけた人事担当者は置いといて。
実は小太り産業医のクライアントでメンタル休職者が、今回の大災害でボランティアに行ってきたのです。
話を聴いて、もしかしたらある特定のメンタルヘルス不調者には災害ボランティアは、
言葉に注意しなくてはいけませんが良いリハビリの場になるかもしれないのです。

当該メンタル休職者Aさんは、入社2年目ですが
大きな会社でのシステム開発のため関東に出向していました。

慣れない土地、出向先での孤独感、責任感などに苛まれ適応障害と診断され、
休職に入ってしまいました。

休職後、途中経過を聴取するために産業医のもとに来ました。

その際に、話の中で彼はこんなことを言います。
「実は、自分のやっていることが、どこでどう役に立っているのか、
そして誰からも認められていない気がする」

自己承認欲求が満たされていないことが、今回Aさんがメンタルヘルス不調に陥る一因だったのです。

慣れない土地や孤独感、責任感もおそらく、自己承認欲求が満たされていれば、些細なことだったのかもしれません。

この言葉を聞いた、小太り産業医はAさんにこう提案します。
「困っている人の手助けをしてみたら?災害ボランティアなんてどうかな?」

すると、Aさんは「ボクよりももっと、困っている人がいますよね・・・。
ボクで力になれるかどうかわかりませんが、一度考えてみます!」と少し前向きの発言をしてくれました。

その後、Aさんは一番近い、大雨による災害地へ赴きボランティアとして従事します。
前回の面談から1ヶ月経過し、再度産業医面談に彼がやってきたところ、明らかに顔つきが変わっていました。

Aさん:「先生、ボランティアに行ってから、自分の変化するのがわかりました!」
小太り産業医:「どんな風に?」
Aさん:「”ありがとう”って声をかけられるだけで、いい気持ちになれるし、
なにより身体を動かすことで夜もぐっすり眠れるようになりました!」

小太り産業医としては、本人がここまで実感する効果があるとは予想外でした。
ボランティアのメンタルヘルスへの影響について調べた研究もあります。
その中では、ボランティア実践者の他者との交流の増加、感謝や充実感などのポジティブな感情経験
良い影響を与えていたり、運動によるストレス軽減効果が確認されています。
Aさんにとって感謝や他者との交流が自己承認欲求を満たしてくれたのかもしれません。

Aさんは9月には復職できるようになりました。
人間にとって、会社や家庭以外で自分を認めてくれる”フィールド”があると、
その人は会社やプライベートでのストレスと上手くおつきあいできると思います。
様々なコミュニティに参加して、自分の居場所を見つけることは大切です。
Aさんはボランティアに参加することで、新しい自分の居場所を見つけることができたのではないでしょうか。

人事担当者:「先生、ボクなんかいつも奉仕活動ですよ!」
小太り産業医:「何!?どこがだよ!」
人事担当者:「いつも、先生のくだらない自慢話や屁理屈を”聴いてあげている”のですから」
小太り産業医:「何だよ!」
人事担当者:「だって、ボクが聴いてあげないと、先生は独り言オジサンになってしまいますよ。」

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文責:新井 孝典(あらい こうすけ)
株式会社 なごや産業医事務所:http://nagoya-sangyoui.com/
代表取締役 所長
認定産業医/労働衛生コンサルタント
認定内科医/循環器内科専門医
日本ストレスチェック協会理事・ファシリテーター
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