ワークライフバランスとメンタルヘルス

人事担当者:「先生、今日のランチはA、B、C定食のどれにします?私は野菜炒めのA定食。」
小太り産業医:「ボクは生姜焼きのC定食にするよ。」
~数分後~
小太り産業医:「え~っ、豚肉の量が少ないじゃないか!!これじゃ、ご飯がかき込めないよ!」
人事担当者:「あらら、ポークライスバランスが悪いですね。(笑)」
小太り産業医:「ワークライフバランスみたいに、上手に言うねぇ」
人事担当者:「ABCとワークライフバランスと言えば、先生。」
小太り産業:「皆まで言うな。」

今回はストレスチェックから少し離れて、ワークライフバランスとメンタルヘルスについてお話しします。

その前に、先日報道され皆さんもご存じと思いますが、ABCマートの過重労働による書類送検について、話します。過重労働とライフワークバランスは対局にありますから。
事件の詳細とその背景、そして今回注目された通称「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)については日経ビジネスにて記事があります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/070700018/?P=1

どうして、最近過重労働やライフワークバランスについて国策として強力に推し進めるのでしょう?
それには背景があります。
2013年5月に国連の社会規約委員会より日本政府に対し「多くの労働者が長時間労働に従事していることと、過労死や精神的なハラスメント(嫌がらせ)による自殺が職場で発生し続けていることを懸念する」と声明を出されました。これは先進国では日本が初めてなのです。
社会権規約は世界人権宣言に基づく条約で、これに批准している日本は改善して国連に報告する義務があるのです。だから、国策としていろいろ手を打っているのです。

国連が日本政府に「懸念」示す、新たな立法・規制も勧告
http://www.sankei.com/west/news/130523/wst1305230052-n1.html

過重労働を減らし、ワークライフバランスを改善する事を事業者そして労働者自身も自覚しなくてはいけません。

ワークライフバランスとメンタルヘルスの関係は?
日常、ワーク>>ライフ(プライベート)である場合、睡眠時間が減り、趣味などを楽しむ時間も減り、家族、友人、恋人との会話の時間が減ってしまいます。睡眠時間が減少することによるメンタルヘルス不調は以前から指摘されていることなので、あえて話しません。

趣味などの時間がとれなくなった場合
我々はアイデンティティーを支えるためにいろんな「柱」を持っています。その柱が”仕事”であり、”仲間(家族、友人、恋人)”であり、”趣味”だと考えます。私が大事にしているのは好きなことをしている時間、つまり趣味を楽しんでいる時間、そしてその居場所・仲間です。ワークライフバランスの調和がとれている人は、仕事でのストレスが負荷となり、”仕事の柱”がポキッと折れても、他の柱つまり”趣味の柱”がしっかりと支えてくれます。
例えば、私の過重面談した方は最初、「仕事で嫌な事があっても、週末にフットサル仲間と会って楽しむ事が出来るから大丈夫です!ストレス発散できています!」と答えてくれていたのですが、その後休日出勤が増え、土日のフットサルに参加できなくなってきたとたんにメンタル不調に陥ってしまいました。
仕事以外の柱として”フットサルの柱”や”仲間の柱”が何とか彼を支えてくれていたのですが、その柱はどんどん細くなってしまい、消失。会社以外の仲間や居場所を無くした彼は、今度は”仕事の柱”が折れてしまい、メンタル不調に陥ってしまったのです。

家族、友人、恋人との会話の時間がとれなくなった場合
厚生労働省の労働者調査では、相談相手に実際に相談することによって、約9割の人がストレスや不安が「解消した」もしくは「気が軽くなった」と答えています。つまり、人は何か強いストレスや不安を感じていた際には、一人で抱え込まずに他人にアウトプットすることにより、心の改善が認められるのです。その相談相手は、家族であったり、友人であったり、恋人であったりします。相談相手に実際に相談しなくても、愚痴などを聞いてもらうだけでも気が軽くなりませんか。しかし、そんな人たちとの会話する時間が減ってしまった場合、やはりメンタルヘルス不調に陥ってしまします。
実際に私のクライアントの話です。とあるシステムエンジニア(一人暮らし)は一度メンタル不調で休職をしており、復職後のフォローアップの面談を行っていました。彼は「帰宅して高校時代の同級生とネットゲームをしながらチャットでいろいろ仕事の相談、愚痴を言い合ったり、雑談している。」と言っていました。このことを表情も明るく話していましたが、その半年後徐々に仕事量が増加し、抱え込む性格であった彼はどんどん残業時間が延びていき、帰宅時間が日付を越えるときもありました。もちろん、高校時代の同級生たちは既に就寝しています。彼は友人との会話を楽しむ時間が無くなり、再度休職に入ったのでした。

私はワーク>>ライフが悪いとは正直考えておりません。人間の成長には適度なストレスと頑張らなくてはいけない時期があります。そして、何より仕事が楽しいとワーク>>ライフになってしまいます。何事もバランスです。
社会人になって退職するまでのワーク:ライフが3:7になれば良いと思っています。

人事担当者:「我が社食もポークライスバランスを考えて欲しいですね。」
小太り産業医:「いや、タレだけでもご飯はイケるよ・・・。」

 

文責:新井 孝典
一般社団法人ストレスチェック協会 理事
日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタント
株式会社なごや産業医事務所代表取締役
https://www.facebook.com/dr.occupational.physician