集団分析は”諸刃の剣”!?Part 2

人事担当者:「先生、今回は集団分析の後半ですね。」
小太り産業医:「前半はどちらかというと良い面や集団分析をお勧めする職場について話しましたね。」
人事担当者:「となると、後半はデメリットの部分ですね。」
小太り産業医:「そう、集団分析の光と影。」
人事担当者:「大げさすぎます!」

さて、前半は集団分析の良い面やお勧めする職場について書きました。
後半はこれに対して、企業の皆様にとって集団分析の予想されうるリスクについてお話しします。

・コストは?

厚生労働省はストレスチェックテスト(SCT)の無料版を公開すると公表していますが、集団分析については不明です。努力義務であることから、無料版プログラムまでは配布しない可能性は高いと思います。となると、集団分析を行うとなるとどこかの業者に依頼することになるでしょう。SCTは厚労省の無料版を使用するけど集団分析だけお願い、はちょっと難しいかもしれません。データの管理などの観点から同一業者が原則ですね。
集団分析を考えている企業は、どこかSCTと集団分析の両方を提供してくれる業者を探さないといけません。SCTは無料で行う業者は多いと思いますが、集団分析は努力義務なので、この部分だけは有料になる可能性があります。
やはり、費用対効果を考えるべきです。

・PDCAサイクルを回せるか?

集団分析の結果を見た場合、多くの方の感想が「ああ、やっぱり」だと思います。多くの会社はどこが問題のある高ストレス職場の存在は知っているので、結果は単なる再確認になるでしょう。
では、その結果を持ってどうやってPDCAサイクルを回すのでしょう。小太り産業医は集団分析=ラインケアと考えているので、下記のサイトで紹介されているツールを使うのも手です。
職場環境等改善のためのヒント集 : http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/ACL/

他にも職場と第三者(人事、総務の人間)を含めたブレインストーミングも有効だと思います。
具体的な方法を記述すると膨大な量になってしまいますので、申し訳ないですが今回は割愛します。
また、集団分析結果の共有範囲をどうするか、担当部課長のみにするのか、従業員全員とするのか・・・、問題になりますね。

・諸刃の剣

さて、やっと本題になります。ここまでいろいろ書いてきましたが、これから起こるかもしれない事例を考えてみました。
集団分析を考えている企業の皆さん。想定事例を読んで、よ~く考えましょう。

諸刃の剣の想定事例①
高ストレス職場から自殺者Aが出てしまい、遺族が裁判を起こしました。会社の管理監督責任を問うたのです。
家族は証拠として会社にAが所属していた職場の集団分析の結果の提出を求めたのです。会社は集団分析を行ってしましたが、結果を確認するだけで何も対策を講じてきませんでした。数年間改善の無い職場の集団分析の結果が証拠として提出される・・・、想像は易いですよね。

諸刃の剣の想定事例②
従業員Bは何度も休職と復職を繰り返しており、今回の復職を希望していますが元の職場への復職は拒否しています。しかし、会社も産業医も元の職場への復職しか許可しようとしません。そこで、従業員Bは「以前から集団分析の結果、高ストレス職場と指摘されているのに、改善も無い。復職してもすぐに悪化してしまう。こんな職場に戻そうとするのは安全配慮義務違反だ!」と訴えました。会社と産業医は反論できませんでした・・・。
この職場では集団分析結果を従業員に公表していました。

諸刃の剣の想定事例③
この会社では集団分析結果を課長以上で共有していました。また、他の部署との時系列を含めた比較も共有されており、ある部課長は毎年高ストレス職場として指摘され、常に上長から改善要求されていたので、それがストレスになってしまいメンタルヘルス不調に陥ってしまいました。
他の部署との結果の比較すると部課長にストレスになる場合があります。共有するにしても結果の通知方法を考えなくてはいけませんね。例えば、他部署との併記は避け、会社平均と担当部署のみにするなど。

いかがでしょうか。小太り産業医が想定できる範囲内で”集団分析の光と影”を話してきました。まだ、この制度は走り始めていないので、今後想定外の事態が起きるかもしれません。ただ、今言える事は一つ。

分析は 努力義務なら 無理しない

人事担当者:「山田君、座布団全部持って行って!」

文責:新井 孝典
一般社団法人ストレスチェック協会 理事
日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタント
株式会社なごや産業医事務所代表取締役
https://www.facebook.com/dr.occupational.physician