先日、某協会の看護部長をされている方々に対する研修という場でストレスチェックの話をさせていただきました。
その質疑の際、「看護師長は実施者になれますか?」との質問を受けました。
病院における看護師長というのがどのような立場で、どういった人事上の権限をお持ちなのかについての詳細が不明でしたので、一般的な回答をさせていただきましたが、実施者を現場レベルではどう捉えればよいでしょうか。
“実施者”になれない者
ストレスチェック制度では、まず実施者について「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」としています。そして、「その他の厚生労働省令で定める者」については、省令において「検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した看護師又は精神保健福祉士」とされています。つまり、実施者になれる者は、医師、保健師又は検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した看護師又は精神保健福祉士(以下、「医師、保健師等」といいます)に限定されています。
ただし、省令においては「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者」はストレスチェックの実施の事務に従事することはできないとされています。さらに、「解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ」とは、通達において「当該労働者の人事を決定する権限を持つこと又は人事について一定の判断を行う権限を持つこと」とされています。
すなわち、医師、保健師等であっても、労働者に対して解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ者は、実施者にはなれないということです。
実務の面において
前述のとおり、①実施者になれる者は限定されている、②そして、実施者の要件を備えていても人事に関して一定の判断を行うなどの権限がある者については除外される、ということになります。
ストレスチェック制度で得られた個人ごとの健康情報については、非常に限定された者しか触れることはできず、そして、人事上の評価等に使用されることのないようにとの配慮が見てとれます。
また、健康情報の取得・利用等に関しても法令においても厳密に取り扱う旨が規定されているところです。
これらの趣旨からすれば、実務の面において、何らかの人事的な評価や処遇について、ストレスチェックの結果が使用された、もしく影響を与えたのではないかというようなあらぬ誤解を受けるような立場の者が実施者になることはふさわしくないといえるでしょう。企業等の規模にも当然よりますが、出来ることならば上記のような立場に類する者も含めて、実施者の選定からは除外するべきではないでしょうか。
こうした配慮は、ストレスチェック制度を運用していく上において、企業とそこで働く人の間の信頼や信用の構築、制度への安心感の醸成といった点からもとても重要なことだと考えます。
中山寛之(なかやまひろゆき)
中山社会保険労務士事務所代表 http://nsr-office.biz/
特定社会保険労務士