産業医が考えるストレスチェック制度と運用

今年は人事・労務に関わる人間にとって忙しくなります。それはマイナンバー制度の導入とストレスチェックテスト制度義務化など新しい制度を二つも導入しなくてはいけないからです。
事業者にとって、ストレスチェックテスト制度を上手く活用することはメンタルヘルス予防、対策などのリスクヘッジへのあくまで「入り口」です。
先日、厚生労働省よりストレスチェックに関するガイドライン、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が発表されました。
この資料と平成27年4月20日に行われた説明会での資料からはストレスチェック制度についての概要がいろいろ見えてきました。
お伝えしたいことは山ほどありますが、この制度を導入した背景と厚生労働省の狙い、そして本来の目的についてお話しします。

厚生労働省がこの制度を導入した背景と狙い

とある企業人事担当者と産業医の会話
人事担当者:「ストレスチェックでメンタルヘルス不調者をあぶり出せますよね!」
産業医:(ため息まじりに)「この制度が始まってもメンタルヘルス不調者はあぶり出せないし、そもそも結果も知ることは出来ませんよ。さらに、このテストをやっても会社のメンタル不調者は減りませんよ」
人事担当者:「じゃあ、何のためにやるんですか!、会社が結果を知ることが出来なかったら、対策立てられないでしょ!」
産業医:「ストレスチェックテストを受けるかどうかは従業員の任意だから、会社が結果を知るとなると誰も受けなくなってしまいます。」

この会話の人事担当者の話に”激しく同意”する方も多いでしょう。
産業医の言葉の中に「このテストをやっても会社のメンタル不調者は減りませんよ」とあります。このテストを施行したからといってメンタルヘルス不調者またはその予備群が減少したエビデンスが存在しないことは厚生労働省は認めているのです。
「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について(基発第544号 平成11年9月14日」に始まるメンタルケアの一次予防、二次予防、三次予防のための施策、指針などを出してきましたが、メンタルヘルス不調者が増加の一途にあること、メンタルヘルスに取り組む会社が少ないことから厚生労働省は原点にたった一次予防での新たな取り組みを始め、さらに健康診断と同じく労働基準監督署への報告を義務づけました。
また、先日の4月4日に厚生労働省から発表された「過労死対策大綱案」の中で「平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合を80%以上(平成26年は60・7%)とする」と具体的な数値目標を設定しています。
新しい制度の創設導入とその報告義務化にはこんな背景があるのです。

本制度の目的

厚生労働省は以下の3つをこの制度を導入する目的としています。
①一次予防を主な目的とする(労働者のメンタルヘルス不調の未然防止)
②労働者自身のストレスへの気づきを促す
③ストレスの原因となる職場環境の改善につなげる

①②は要するにメンタル不調予備群の従業員にテストを受験してもらい、その結果から自分でメンタルヘルスのセルフケアをして欲しい、ということです。
だから、結果は本人にしか通知しませんし、当然ながら会社側には通知されません。(ただ、面談になった場合は通知されることがあります)
メンタルヘルス不調になり休業になったときの会社の損失、そしてメンタルヘルス不調での医療機関受診者数の増加に伴う医療費の増加。これらを抑制するためにもメンタルヘルス不調「予備群」を不調者にしない。
そして事業者が行動するのでは無くて、自ら行動して欲しいとの願いが感じ取れます。
③は集団分析であり、これは努力義務なので詳しい説明は割愛します。

他にガイドラインを見ると、事業者への負担もかなりあります。
・導入前に衛生委員会での調査審議11項目
・高ストレス該当者の選定条件は事業者が決める
・日常的な相談体制の構築
等々。

事業者側としての疑問も多いでしょう。
・当社は既に年4回ストレスチェックを施行しているが、その位置づけは?
・費用は?時期は?
・従業員の受検は任意とはいえ、どのくらい受けさせるべき?
・どうしたら、受検率を上げられるのか?

大事なことは、実施者である産業医と決めなくてはいけません。
メンタルヘルスのことを何も知らない会社が、子会社でストレスチェックテストを打っていることもあります。
EAP会社の言いなりならず、あなたの会社が主体的に社内制度を構築し、実践的に運用するにはどうしたらよいか?

まだまだ、お話ししたいことはたくさんあります。
私が理事を務める一般社団法人日本ストレスチェック協会では2015年5月28日に社労士、産業医による制度の理解を深め、実際の運用について具体的にお話しする実践セミナーを開催します。
このセミナーを受講していただければ、ストレスチェック制度は怖くありません!

一般社団法人日本ストレスチェック協会
http://jsca.co.jp/

2015年5月28日(木) ストレスチェックテスト指針発表後、ここだけの話
http://jsca.co.jp/20150528seminar/

文責:新井 孝典
一般社団法人ストレスチェック協会 理事
日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタント
株式会社なごや産業医事務所代表取締役
https://www.facebook.com/dr.occupational.physician