メンタルヘルスにおける安全配慮義務と自己保健義務

とある小太り産業医と人事担当者の会話
人事担当者:「先生、東芝事件では会社は従業員のメンタルヘルスの状態を把握していなくても安全配慮義務を果たさないといけない、と言うことですよね。」
小太り産業医:「まあ、端的に言えばそうなりますね。行動がおかしいと感じたら察しろと言うことですね。」
人事担当者:「安全配慮義務とお題目の様に声高に言われていますが、なんで会社側ばかりがいろいろ義務を課されなくてはいけないのですかね。おかしくないですか?」
小太り産業医:「いえいえ、従業員には安全配慮義務と対をなす義務がありますよ。」
人事担当者:「なんですか?それ?」
小太り産業医:「自己保健義務です。」

東芝事件については詳しくは下記を参照して下さい。
http://www.rofuku.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/sanpo21/sarchpdf/77_hanrei_18-19.pdf

さて、今回は「事業者による安全配慮義務」に対をなす言葉、「労働者による自己保健義務」についてのお話しです。今回はストレスチェック制度義務化においてどのように考えるかです。

安全配慮義務が記されている条文
労働安全衛生法 第四条
「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。」

自己保健義務が記されている条文
労働契約法 第五条
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
労働安全衛生法 第六十六条第5項
「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。~」
労働安全衛生法 第六十六条の七第2項
「労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。」

労働者は良質な労働力を提供する対価として事業者から給与をもらっています。労働者は良質な労働力を提供するために、その資本である身体の健康を保つために取り組まなくてはいけないのです。

よく例として取り上げられるのが健康診断です。
事業者による安全配慮義務 → 健康診断の実施義務
労働者による自己保健義務 → 健康診断のを受ける義務

しかし、今回のストレスチェック制度ではどうなっているでしょうか。
事業者による安全配慮義務 → ストレスチェックテストの実施義務
労働者による自己保健義務 → ストレスチェックテスト受検は任意・・・。

アレ!?ストレスチェックテスト受検は自己保健義務ではないの!?

いえいえ、早合点してはいけませんよ。
先日のガイドラインになぜ受検を任意にしたのか理由が記載されています。
「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150511-2.pdf

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ストレスチェックに関して、労働者に対して受検を義務付ける規定が置かれていないのは、メンタルヘルス不調で治療中のため受検の負担が大きい等の特別の理由がある労働者にまで受検を強要する必要はないためであり、本制度を効果的なものとする ためにも、全ての労働者がストレスチェックを受検することが望ましい。

つまり、特別な理由がある労働者以外は自己保健義務を履行するためにも受検しなさいってことです。

前回にも書きましたが、この制度の本来の目的の一つに「労働者自身のストレスへの気づきを促す」があります。つまり、これこそ正に自己保健義務をしっかり履行しなさいって言っているようなものです。

ストレスチェック制度には、自分のメンタルヘルスは自分で主体的に取り組むことつまりセルフケアのという自己保健義務の考え方が反映されています。

・労働基準監督署へ受検率の報告義務があるが、どのくらいを目標設定にすべきか?
・知的障害者にはどう対応したら良いのだろう?
・この制度における安全配慮義務と自己保健義務についてもっと知りたい。
などなど、いろいろお知りになりたい方は下記のセミナーに参加してみてください。
私も講師陣の一人です。

ストレスチェックテスト指針発表後、ここだけの話
http://jsca.co.jp/20150528seminar/

【日時】 2015年5月28日木曜日 10時-17時(−19時)
【場所】 日本橋界隈(詳細はお振込確認後にお伝えさせていただきます)
【費用】 通常チケット 1名様で1万円(税別)
【費用】 特別チケット 1社2名様で5万円(税別)
【9:30-】     開場
【10:00-12:00】 企業のリスクマネジメントの観点からみたSCTの7つのポイント、規定・規約について
【13:00−13:30】 SCT概要:SCTの背景を理解し、やらないことはやらないと判断する、2つのSC、3人の産業医
【13:45−14:45】(衛生委員会等で)会社が決めるべきこと、やらなくてもいいこと、”望ましい”SCT、紙とIT
【15:00-15:45】 3つのSCT計画具体例:最も安く、最もブラックに、最も優しくSCTを行う方法。実際に産業医がクライエント20社に導入するパターンとは?
【16:00-16:45】 SCT後のメンタルヘルス対策:SCTで生じ得るリスクにどう対処するか
【17:00−19:00】 グループコンサル:5社10名様に対しての具体的・実践的質疑応答*1
*1:グループコンサルティング申込者のみ

文責:新井 孝典
一般社団法人ストレスチェック協会 理事
日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタント
株式会社なごや産業医事務所代表取締役
https://www.facebook.com/dr.occupational.physician