日本では、100人に3-7人という割合で経験すると言われているうつ病。
産業医をしていてうつ病の診断名を目にすることは珍しくありません。
しかし、うつ病になってからの経過は実に様々です。
うつ病は睡眠や食事などの日常生活の回復に比べて、
仕事での能率の回復は遅いと言われています。
また、良くなったように見えても症状が再燃することもありますので、
うつ病の社員さんが復職した後は、私が訪問する事業所の多くは、
復職後に負担がかからない業務内容に配慮してくれています。
それでうまくいく場合もあれば、
業務負荷を減らしても仕事のパフォーマンスがいまいち上がらずに何年も経過する場合もあります。
特に統計をとったわけではなく、あくまでも印象ですが、
私が担当した社員さんでは、半数が発症前と同程度のパフォーマンスに回復、
半数は、発症前のパフォーマンスより落ちた状態で経過する、という印象です。
逆に、発症前よりも元気に、仕事のパフォーマンスが明らかにあがった!という方も数名、
ごくごくわずかながらいます。
残念ながら(?)、産業医面談がきっかけでパワーアップした、というわけではないので、
そんな方3名に何がきっかけで元気になったのか、聞いてみました。
聞いてみて共通していたのは、「他人のせい(環境のせい)をやめた」ということでした。
ある方は、休職・復職を繰り返していました。
休職した当初は自責の念が強かったのですが、少し回復してくると、
職場への不満・不信感を口にされるようになりました。
復職後、職場上司と面談すると、「決して無理はさせてない、配慮してるつもりなんだけど・・」
と上司も困っている様子。
ご本人も「配慮してもらっているのはわかっている、
でも忙しくて体調を壊したのが会社のせいだと思うとまた怒りが出てくる・・」
そんな様子で仕事の能率は上がりませんでした。
しかし、復職してしばらくしてからの面談で、とてもすがすがしい表情をしているな、
と思ったら、とても意欲的に仕事をするようになったのです。
どうしたのか聞くと、
「病院のグループワークで他の患者さんの話を聞いたり、
新しく始めた趣味の仲間といろんな話をするようになった。
会社仲間とは違ういろんな価値観に触れていたら、
会社のせい、人のせいっていってるの、
もうやめようって思えたんです。」
うつ病の方すべてが「他人(環境)のせい」と自覚されているわけではないと思いますので、
この話がどこまで参考になるかわかりませんが、
思うに、誰かを恨む、怒りを抱く、ということは相当なエネルギーを使うことなのではないでしょうか。
この方は、被害者でいることをやめるとともに、
そのエネルギーを仕事に、趣味に、自分の人生のために使えるようになったのではないかと思います。
もし、恨みや怒りでエネルギーをそがれ、
自分の人生が生きられていないなら、手放した方が良いのだと思います。
とはいえ、許せない出来事もあるでしょう。
被害者である自分が、なぜ変わる努力をしなければならないのか、理不尽ではないか、という思いもあるでしょう。
また、怒りをバネに成功する例もありますから、すべてが悪いわけではありません。
しかし、苦しみから抜け出す一歩は、自分が出すしかないのです。
最後に精神科の先生との会話をご紹介します。
ある時、精神科の先生とお話していて、尋ねました。
「他人や環境に対して、怒りを抱き続けている患者さんには、先生はなんて声をかけるんですか。」
すると、「僕は、例え話をするんです。」と言って、
「女学生の時に痴漢にあって以来、男性不信になって、男性を寄せ付けず独身を通し、
おばあちゃんになってから、あの時痴漢に合わなければ、結婚して子供や孫がいたかもしれないのに・・・
と痴漢を今も恨んでいる、オトメばあさんの話」をしてくれました(結構長い、笑)。
「患者さんに聞くんです、オトメばあさんは、どうしたらよかったのかな、って。」
なるほど、と思いましたが、
密かに産業医面談の参考にしようと思っていた私には、マネできないテクニックでした。
その先生の温厚な雰囲気、ユーモラスな語り口、精神科医としての経験の裏付けあってこそのテクニックであり、
下手に私がマネをしても響かないどころか、逆効果でしょう(笑)。
・・・何事もコツコツ、経験を重ねるしかないと、反省した会話でした。
川住幸子
日本医師会認定医
仙台かわすみ産業医事務所(合同会社メディカルロゼ)
http://medicalrose.co.jp/