新常態でのメンタル悪化に備える→新常態は人ぞれぞれ。他人を羨むことをしない。自分の新常態を大切にする。他人の新常態を尊重する。【後編】

新常態に上手に早く適応するための魔法の薬はありません。
自分の価値観にあった形での出社や在宅勤務ができる新常態であっても、新しい生活様式に適応するのは、
時に簡単にいかないことがあります。

自分が適応できるまでは、健康的な食生活と睡眠により、
規則正しい生活をすることに尽きます。

観劇や卓球など、室内での趣味を持っていた人は、コロナ前のように継続は難しい場合も多々あるようです。
ですので、新しい生活様式に合う形での新しい趣味・好きなことを作ることもお勧めしています。
好きなことをしている間は、色々なしがらみを忘れられます、気持ちの良い楽しい時間を過ごせます。

そんな日は、きっとよく眠れるでしょう。趣味はいい気分転換になるのです。
一方、 出社したくないのに出社、または、仕事がはかどらない在宅勤務の継続など、
不本意ながらの新常態を迎えている人は、もう少し注意が必要です。

不安やストレスを感じながらも、新常態にいずれ適応できる人はいいのですが、産業医としての私の経験上、
他者他人の新常態を羨み、妬み、ひがむ傾向がある方は、新常態の中でメンタルヘルス不調になってしまいがちのようでした。
 Oさんは夫婦共稼ぎで、小学5年生の男の子を持つ40代のベテラン男性社員でした。
緊急事態宣言中は家族全員在宅で過ごしました。

日頃、夫婦同士もお子さんとも接する時間が少なかったため、在宅勤務の2カ月間は家族の絆を再確認し、
家庭内ではストレスのない時間を過ごしたようでした。
奥様の会社は6月から全員出社となり、Oさんとお子さんがしばらく2人での在宅となりましたが、男2人での生活もOさんは楽しかったようです。
 
6月中旬になりOさんの会社でも出社が始まりましたが、部署・業種ごとに出社か在宅かが決められました。
たまたまOさんの業務は出社することが求められましたが、このことが腑に落ちず、在宅組の同僚を羨んだり、
自分を出社組にした上司を妬んだり、の気持ちがあり、7月に産業医面談に来られました。

面談では、在宅組の同僚達の家族構成や家庭事情を引き合いにだし、子供がいる自分こそが在宅となるべきだと主張するOさん。
よくよく状況をきくと、コントロールのできない怒りやイライラのため、家族に怒鳴るようになってしまったことや、
寝付けないことが増えてきているとのことでした。

冷静になれば、上司が当て付けではないこと、ご家族は何も怒られるほどのことはしていないことはわかるようでした。
Oさんには、しばらくはカウンセリングに通うことをご提案しました。

別の会社のTさんは、入社5年目の働き盛りの30代女性でした。
緊急事態宣言で在宅勤務になる同僚たちがいる中で、彼女は数少ない出社組に任命されました。
もちろん、これは彼女の業種や能力を見込んでの上司の判断だったのですが、
その説明にも彼女は納得できませんでした。

「なぜ私なのか?」、上司に聞いて説明を受けても、なかなかその理由に納得は出来ませんでした。しかし、命令なので従いました。
不本意ながらの出社が続き、緊急事態宣言があけて同僚たちも出社してくると、緊張の糸が切れたのか、
朝目覚めると頭痛や倦怠感に襲われ、起き上がることができなくなってしまいました。
第2波がきたら、また自分だけ出社組なのかと思うと、時々不安に襲われるとのことでした。次第に睡眠障害も出始め、医療受診し、現在休職中です。

多くの人にとって、緊急事態宣言の約2カ月間は、これまでに自分が無意識的に持っていた価値観、
ワークライフバランス観などについて、見つめ直すきっかけになったようです。
緊急事態宣言後の現在、自分の新しい価値判断や優先順位は、ぜひ大切にして欲しいと思います。
まずはそれぞれが自分の新常態に適応することが大切です。

しかし、同時に、他人の新常態も、つまり他人の新しい価値観も、ぜひ尊重して欲しいと感じる今日この頃でした。