年間1000件の産業医面談でわかったことは、
職場のストレスの原因は必ずしも仕事の質や量、人間関係ではないということです。
仕事はそつなくこなすものの、日々の生活に趣味、楽しみ、熱中できることがなく、
オンオフのメリハリや気分転換ができず、
肉体的にも精神的にも磨耗消耗し、特別目立ったきっかけや原因がなくても、
周囲が気づかない間にストレスをため、心身ともに病んでいくパターンもありました。
このような人たちに共通する傾向を私は「ガス欠ストレス」と呼んでいます。
先日、最近休みがちだということで
上司の勧めで産業医面談にきた転職後2年目の32歳独身男性はこの典型例でした。
上長の彼への評価は、
“優秀ではないが、ダメでもない”普通の社員でしたが、
勤怠簿によると半年前からは毎月1−2回病気で休んでいました。
実際に面談すると、半年ほど前から“体調不良”によく見舞われるようになった、
そして2ヶ月前からは頭痛と目眩の頻度が増えたとのことでした。
近医で頭のMRI検査を受けるも異常なし。
頭痛薬をもらい飲んでみると症状は当初は改善していたが、
最近は改善しにくくなり医者からも遠ざかっているとのことでした。
会社から徒歩圏に住み、睡眠も良好、仕事で結果が出なくなった等の
否定的な自覚はありませんでした。
1年前までは前の会社の同僚たちと毎週の飲み会や週末の麻雀大会を楽しんでいたようですが、
今の職場では同世代がおらず仕事後の飲み会もない上に、
転職後は旧友たちとも疎遠になり週末は一人家で何もしないで過ごすことが多いとのことでした。
仕事は嫌いではないが、淡々とこなすのみで、
特に達成感やチームワークを感じることはない、
帰宅後仕事はしないものの一人テレビとゲームで過ごす日々で、
だんだん何もする気が無くなってきているということもわかりました。
面談中、相手の目を見て話すこともほとんどなく、笑顔もなく、覇気がなかった姿が印象的でした。
この男性は「ガス欠ストレス」の典型例とも言えるでしょう。
メンタルヘルス不調になりかけていることを上司や同僚が知ると、「あの程度の仕事で?」等、
周囲が驚くのもこのようなケースであることが多いです。
このようなケースは症状が悪化するまでは、たとえ働き続けることができていても、
仕事以外での熱中できること、趣味などを見つけない限り、なかなか治らないことがあります。
この方には、仕事以外でも自分の熱中できることを見つけることが大切と感じ、
薬を中心とした治療よりも定期的なカウンセリングを勧めました。
ストレスに対処することは大切です。
しかしそれ以上に、日々の生活の中で楽しみや熱中できることを持つことこそが、
ストレスに悩まされないことに一役をかっているのです。
是非、皆さんも熱中できることを大切にしてください。
文責:武神 健之
一般社団法人ストレスチェック協会 代表理事
医師、医学博士、日本医師会認定産業医