企業がストレス・メンタルヘルス対策を導入する意味と意義~その1

ストレス対策を導入する企業が増えているが、その意義(効果)は

 厚生労働省の患者調査によると、うつ病等の気分障害患者数は過去10年に倍以上に増加しています(1999年に44.1万人、2008年には104.1万人)。また、
平成26年度「過労死等の労災補償状況」によると精神障害の労災請求件数は1,456件、支給決定件数は497件であり、ともに過去最多を記録しています。
 また、自殺とうつ病による休業・失業などによる社会的損失額は、2009年の1年間で約2兆7000億円に上るとの推計結果もあります(厚生労働省と国立社会保障・人口問題研究所)。
 企業のメンタル休職者に対する負担は、金額にすると休職者1人あたり422万円というデータもあります。(内閣府 仕事と生活の調和(ワークライフバランス)に関する専門調査会「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」(平成20年))
 このような状況の中、近年、経済学的視点からも企業のストレス・メンタルヘルス対策の効果を示すデータが出てきました。2014年6月13日日本経済新聞の経済教室によると、メンタルヘルス不調による休職者が少ない(減少した)企業の方が、リーマンショック後の景気後退の中でも企業の業績(利益率)の減少が少なかったとのことでした。

 メンタルヘルス対策の一環として、従業員のストレス対策を導入することは、道徳的に想像は難しくありません。しかし、以上より、企業がストレス対策を導入する意義は、道徳的意義以外に、社会的にも、経済的にも「ある」と言えるでしょう。
 

 では、果たして企業のストレス対策の現状の効果はいかほどでしょうか。

 現時点で、ある種のストレス対策を任意の集団(組織)に導入することにより、その集団(組織)におけるメンタル不調者が有意に減少したという医学的に信頼出来るデータはありません。
 2015年12月にストレスチェック制度が始まりました。新制度の目的は、職場のメンタルヘルス対策のセルフケアの強化・徹底と、職場環境の改善です。この制度は、関係者たちからは、さまざまな希望や期待が寄せられています。厚生労働省は、制度開始にあたり、標準的な質問として57問からなるストレスチェックテストを公開してくれています。しかしながら、この厚生労働省の提供する57問の標準的質問においても、利用したからといって集団(組織)のメンタルヘルス不調者が有意に減少したという実績はないことを厚生労働省自身が認めています。

 では、このようなストレス対策を導入する意味はないのか?やるだけ無意味なのでしょうか?というと、私はそうは考えません。1つだけ確かなことがあります。
 それは、最低年に1回行われる“からだの健康診断”を受ける時、誰もが自分のからだの健康について少しは考えるように、新制度によって、年に1回すべての従業員が自分のストレスやメンタルヘルスについて考える“きっかけ”が生まれます。これだけでも大きな進歩だと思います。

上記記事の詳しいデータは以下リンクよりご覧いただけます。
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000089447.html
http://toyokeizai.net/articles/-/5022
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/yamamoto/02.html

文責:武神 健之
一般社団法人ストレスチェック協会 代表理事
医師、医学博士、日本医師会認定産業医