ストレスチェック制度における「安全配慮義務の遵守」は、目的か結果か?
2015年12月に、ココロの定期健康診断ともいえるストレスチェック制度が始まります。
従来のカラダの定期健康診断は、会社には実施する義務、従業員には受診する義務があります。一方、ストレスチェック制度に関しては、会社にはこの実施義務がありますが、従業員には受検義務はありません。
では、何のために、会社はストレスチェック制度を行うのでしょうか?
法律で決まったから?会社のため?それとも、従業員のため?でしょうか。
いろいろな答えがあると思います。
安全配慮義務の存在
日本では、会社には「安全配慮義務」というものがあります。諸外国ではあまりこのような概念の義務はありません。これは簡単に言うと、会社は従業員のココロとカラダの健康を守る義務があるというものです。
この安全配慮義務の考えは、従来は裁判事例をもとにこの言葉が引用されていました。
そして、2008年施行の労働契約法に、第5条 労働者への安全への配慮「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」という形で明記されました。
だから、法律を守るためにストレスチェック制度を実施するのでしょうか?
安全配慮義務を遵守するためにストレスチェック制度を実施すること。これは間違いではないでしょう。しかし、安全配慮義務の遵守が目的となってしまっては、ストレスチェックテストの受検が任意である従業員達の参加はそう多くは見込めないと考えます。たとえ受検してくれたとしても、従業員が本心で答えてくれているかはわかりません。
安全配慮義務は目的か?結果か?
このことを考えるためには、そもそも、安全配慮義務の目的が何か?を考えなければならないと思います。
安全配慮義務の遵守はあくまでも、従業員のココロとカラダの健康を守るための標語、概念、法律です。いわば、「従業員のココロとカラダの健康の実現」こそが真の目的であり、安全配慮義務はあくまでも、その達成のための法律、標語でしかありません。
安全配慮義務はあくまでも手段であり、目的ではありません。
ストレスチェック制度も、あくまでも、メンタルヘルス対策の1つの手段にすぎません。厚生労働省もこれはあくまでも一次予防であることを明言しています。ストレスチェック制度の実施自体が目的化していては、いけないのです。そこに、真の「従業員のココロとカラダの健康の実現」はないでしょう。
従業員のココロの健康のため、メンタルヘルス対策1次予防であることを考えたとき、任意でありながらも、多くの従業員が参加(受検)してくれる仕組みのストレスチェック制度を導入することが大切です。
「従業員のココロとカラダの健康の実現」が目的となったときはじめて、安全配慮義務が遵守されるのではないでしょうか。
従業員の満足、経営陣の納得のいくストレスチェック制度の導入こそが、求められています。
ストレスチェック制度は、年に1回すべての従業員が自分のストレスやメンタルヘルスについて考えるきっかけになります。制度の実施方法ばかり考えるのではなく、この機会に会社として従業員のメンタルヘルス対策をどのようにしたいのか、そのためにストレスチェック制度をどのように活用したいのかを考えることも大切と、産業医の私は考えます。
文責:武神 健之
一般社団法人ストレスチェック協会 代表理事
医師、医学博士、日本医師会認定産業医