先日、事業場内の「メンタルヘルス推進担当者」に対する研修会に講師として参加しました。私からは「心の健康づくり計画」についての話をさせていただきましたが、労働基準監督署からは安全衛生課長も講師として招かれていました。
安全衛生課長からの話では、当該労働基準監督署が事業場に調査等に入る際には、「心の健康づくり計画を作成していますか」という質問を必ず加えているそうです。
「心の健康づくり計画」とは
「心の健康づくり計画」とは、厚生労働省が平成18年に示した、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(以下、「メンタルヘルス指針」といいます)によるもので、事業場におけるメンタルヘルスケアの具体的な方法等についての基本的な事項を定めたものです。
会社としてのメンタルヘルスケアの方針や進め方について、誰にでも理解できるようにするとともに、メンタルヘルスに関しては中長期的な視点を持つ必要があるため、継続的かつ計画的な実施と実施状況の評価と見直しを繰り返していくことが重要となりますので、会社の計画として作成することが求められているものです。
ただし、メンタルヘルス指針はあくまでも“指針”であって、「心の健康づくり計画」についても作成が義務付けられているものではありません。
しかしながら、12月から施行されるストレスチェック制度との関係から見ていくと、その重要性をうかがうことができます。
ストレスチェック制度は、法律により実施が義務付けられているものです。制度が実施されることになれば、セルフケアに関心を持つ人が出てくる可能性も高いでしょうし、ラインケアの充実を考える上司なども増えるかもしれません。また、事業場だけでなく、事業場外にある資源(公的機関など)への相談などを考えるきっかけになる可能性もあり得ます。
ストレスチェック制度の基本的な考え方にも、「労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防を目的としたものであり、事業者は、各事業場の実態に即して実施される二次予防及び三次予防も含めた労働者のメンタルヘルスケアの総合的な取組の中に本制度を位置付け、取組を継続的かつ計画的に進めることが望ましい」とされており、事業場のメンタルヘルスケアの推進にも影響を与えることになるでしょうし、そうしたことも当然に望まれていると考えられます。
「心の健康づくり計画」で決めておくべきこと
メンタルヘルス指針の中では、「心の健康づくり計画」の中に次の7つの事項を盛り込むべきとしています。
① 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
② 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
③ 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
④ メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
⑤ 労働者の健康情報の保護に関すること
⑥ 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
⑦ その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
具体的には、各都道府県労働局で公表されている様式等(参考:神奈川労働局HP)にあてはめれば、作成することが可能です。
しかしながら、「心の健康づくり計画」の作成を目的としてしまっては本末転倒でしょう。
事業場のメンタルヘルスケアについてどう考えるのか、会社としてもメンタルヘルスの理解を深めてもらい、リスクと生産性への影響などを鑑みて、事業場の方針と推進方法を明確に示しておく必要があるでしょう。
そのうえで、産業保健スタッフ等が意見交換や情報の共有、連携の在り方などについて考えてもらう、そういった経緯のほうがはるかに重要なことです。
ストレスチェック制度の施行は、事業場のメンタルヘルスケアのあり方について考える一つの契機でもあるでしょう。
中山寛之(なかやまひろゆき)
中山社会保険労務士事務所代表 http://nsr-office.biz/
特定社会保険労務士